二足歩行したくない さんの感想・評価
4.1
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
大海を知らない井の中の蛙と、大海に出てしまった蛙
両親が他界し、姉妹二人きりで暮らすことになった高校生の「相生あかね」と、妹の「あおい」が主人公。
あかねは同じバンドメンバーで交際していた「金室慎之介」に、一緒に東京に出るという約束をしていたが、ある日、お堂の前で別れを告げ、あかねは地元の市役所に就職して一人、あおいを育てる。
それから13年の月日が流れ、あおいが高校3年生になったある日、彼女らの済む地区で大物演歌歌手・新渡戸団吉を招いて音楽祭を行う企画が持ち上がり、あかねと、同じ市役所に勤める、元あかねと同じバンドメンバーだった「中村正道」がその対応をすることとなる。
団吉の到着を待つあかね、あおい、正道の前に、団吉が現れるが、そのバックバンドメンバーに金室慎之介がいた。
東京に出てミュージシャンになる夢を、叶えるは叶えたが、思っていた夢とは違っていた慎之介は、夢破れ、やさぐれていた。
そんな折、お堂でベースの練習をしていたあおいの前に、13年前の姿の慎之介が現れる。
実体があり、ものに触れられるが、過去の姿と記憶そのままの慎之介は、なぜかお堂から出ることができない。
地縛霊か、生霊か、というところはともかく、夢を捨ててこの地で過ごすことを決めたあかねと、自分で自分を制限している姉にどこかじりじりしているあおいが、大きく動き出す物語となっています。
13年前から続く日々が大きな楔のように縛り付けている、そのきっかけとなった出来事が、あろうことが実体を伴って目の前に現れてしまったからさあ大変、という感じの展開と思いました。
夢を持ったままの慎之介と、とてもなりたい大人とは言えない姿となってしまった慎之介の二人の慎之介が現れますが、物語は慎之介にスポットをあてて進んでいないです。
そのため、『忘れかけていた夢を、過去の自分が現れて気づかせてくれる』 みたいな、疲れたおっさんの自己啓発的なところは本作のメインテーマとは違うのかなと思いました。
主人公のあおいは高校3年生の女子高生ですが、女子高生らしい初々しさやキラキラしたところは一切ない、ひねくれたクソ生意気なタイプです。
彼女は、あかねを開放するため、進学せずに東京に向かうことを決めているのですが、それだって人生の選択の一つであり、否定することはできないものの、やはり考えなくていいことを考えて、誰かにお願いされたわけでもないことに人生を使っている感じがします。
本作は彼女、あおいの動向にスポットがあたっていて、彼女の中にある、ずっと長い間冷凍庫に入れっぱなしで熱湯をかけても溶けない氷が力技で溶かされるような、説明が難しいですが、そんな過去の精算が描かれているように感じました。
物語は淡々と、いつもどおりの人々がいつもどおりの日々の中で進みますが、ある事件をきっかけに心が決まります。
そして最後は、動き出して、そして改めて考えて、そしてようやく進むことができたのだなと思いました。
なお、"あの花"、"ここさけ"に続く「超平和バスターズ」原作作品です。
前2作で良かった方は期待を裏切らず、期待以上の作品になっていると思います。