フリ-クス さんの感想・評価
4.0
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 3.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
え゛、これ描いちゃっていいの?
昨年末、島本須美さんが一般誌のインタビューで、
「声優志望者も業界も『アイドル』を求めてる」
という発言をされていました。
もちろんそれは、その傾向全てを否定するものではなく、
それによって全体の芝居品質が低下したり、
その人の役者人生が短くなることを危惧してのご発言でしたが。
実際のところ『ひどい芝居のアニメ』は無数に存在します。
とある音響制作会社の部長さんが、
新人役者はあまりラジオやアイドル活動をしてほしくない、
周りが『ちやほや』して、
本人が勘違させられてしまうから、
ということをしみじみ語ってくれたことを思い出しました。
残念ながら、そういう『勘違いした』役者さんは一定数います。
(ほとんどは尊敬できる方ばかりですが)
そして、どうしようもない製作関係者というのも一定数います。
この作品の前半は、
そういうどうしようもない業界の一面を、
デフォルメしながらも芯を外さず描いちゃっています。
もちろん笑えるところもあるけれど、
笑うに笑えないところがけっこうたくさんあります。
え゛、それ描いちゃっていいの? みたいな。
{netabare}
とりわけ第三話ぐらいまでは全開で『ぶっ飛ばして』います。
『SHIROBAKO』も、それなりに攻めてはいましたが、
こっちはその比ではなく、
本来は波にのせちゃイケナイような発言・演出がてんこもり。
正直、ハラハラさせられるレベルにあります。
五話以降、作品内作品『クースレ』がディスられ始めてからは、
攻めがだんだん緩やかになって、
ストーリー性重視の展開へと変わっていきます。
まあ、千歳ぐらいの実力・感性で『次』があるはずもなく、
仕事は『クースレ』にからんだイベントやラジオ稼働のみ、
後輩に追い抜かれて焦りながら沈んでいくさまも、
リアルと言うならば、かなりリアルに描かれています。
ちなみに現実の業界話を申し上げますと、
一発『あたり役』を引いたら、
その余韻で二年は食えると言われています。
話題性欲しさに作品で役がつくケースが増えますし、
なんといっても、
ラジオやイベントなど『アイドル仕事』が激増しますから。
で、その間に自分を磨いて音監さんに認められる役者になれば、
プロとしての道がつながっていきます。
いい気になって自己研鑽を怠った人は……『使い捨て』です。
若くて可愛い新人がいくらでも出てくるのに、
二年も前の、ろくな芸もない役者をなんで使わにゃならんのだ、
それはもう『あたりまえ過ぎるほどあたりまえ』の話です。
歌が得意ですト-クにも自信ありますって、
そんなのは『きちんとした芝居』を見せてからのことなんです。
本作内の『クースレ』は、ヒットすらしなかった駄作ですから、
ろくな努力もしていない千歳が瞬く間に落ちぶれるのは、
ほんと『あたりまえ』としか言いようがありません。
作品終盤ではちょっとだけ性根を入れ替えた千歳が、
ほとんど棚ぼた的な『次』を手にいれますが、
これはもう、創作物ならではの予定調和としか言いようありません。
なんせ最終回でも千歳は
「新人声優稼働が第一、芝居は第二~」なんて呟いていますから、
ある種、スラップスティックとして笑うところですらあります。
ただ、アニメ作品として世に送り出す以上は、
こういうおとしどころはオトナ的に仕方ないでしょうね。
千歳がコンビニや居酒屋でバイトしてるエンディングとかだったら、
シュ-ルすぎてかたまっちゃいそうです。
総合的に、人におすすめできる作品かと言うと、
正直な話「僕は好きですが」としか表現のしようがありません。
前半のドライブ感が好きな方は後半もの足りないだろうし、
役者さんやアニメ製作を『神々しい仕事』みたく考えている方には、
もはや『冒涜』以外のなにものでもないだろうと思います。
ほんと、誰得なんだろう、この作品?
ただ、これ以上攻めたりリアルに寄せすぎたりすると、
たぶん『始末書もの』になっていたでしょうね。
僕的にはそっちでもよかったのですが、ムリ、ムリなんだってば。
{/netabare}