薄雪草 さんの感想・評価
4.2
物語 : 4.0
作画 : 5.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
our extra season
2018年の1~3月期の作品群は、アニメへのレギュレーション(regulation)の壁を越えていた。
私はそう見ています。言わば singularity(特異点)です。
レギュレーションとは、一般的には、法的な規則、禁止事項という意味です。
端的に言うと「"必ず" 守らなければいけない決まり」になるでしょうか。
ラテン語では「支配する」「厳密な決めごと」のニュアンスがあります。
相互の関係性を意味する言葉ですから、そこには主体と客体があります。
西洋的な概念から解釈すると、創造主たる神と人間、神に作られた人間と自然界、成人男性とそれ以外。この3点が主体と客体の主な相関性です。
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この時期のあにこれの順位は、第1位がヴァイオレット・エヴァーガーデン、2位が宇宙よりも遠い場所、3位がゆるキャン△です。
総合トップ20を見ても「同年度、同時期の作品」で入っているのは、この3作のみになります。
ゆるキャン△は13位(2021年4月1日付)ですが、この先、順位変動の影響で変わるかもしれません。
アニメ全体で見れば、新たに良い作品が作られたということ、あるいは、レビュアーの新しい評価が得られたということでしょうから、それはそれで素敵なことでしょう。
いずれにしても人気作品ですから深夜枠であることが勿体ないくらいです。
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さて、先のシンギュラリティ(特異点)にも触れておきたいと思います。
総論的に言うと、上記の3作品は、いずれも女性が主体として描かれていて、女性性で物語が進められていきます。もちろんそこには男性性のレギュレーションが厳にあるのですが、女性性から見たレギュレーション批判もまた通底したかたちで描かれていたように思います。
図抜けて描かれていたのは "ヴァイオレット" です。
設定も戦時下という辛辣なものでしたが、彼女は自らの時間軸を再構築する中で多くの大切なことに気づき、やがては戦禍の傷あとを「愛してる」で昇華させてしまったのです。
劇場版では、社会の旧い因習にも触れ、弱者や女性性の新しい自律性への可能性を描いています。また共同体のなかで自縛を解きつつ、ギルベルトとの絆を締結しなおし、歴史として未来にその姿を残しました。
多くの方がTV版、劇場版をご覧になられ、ヴァイオレットのメッセージを受け取られたのではないかと思います。
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友情をメインテーマにして描かれたのが "よりもい" です。
南極というと男性がメインの世界。そこに女性性をふんだんに盛り込み、相互の信頼と勇気、補完と協力が交われば「ざまあみろ!」だって言えるし、「ざけんなよ!」だって言えるのです。
いささか物騒な言葉ですので過敏に反応されるのも仕方ありませんが、大事なことは「それくらい得がたいものはそこにしかない」ということです。
普通の女子高生が普通でない生き方を選び、完遂する。
これがレギュレーションを越えたとする私のおもいです。
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さて、ゆるキャン△です。
女子高生、ソロキャンプ、冬。
それだけでも見たこともないテクスチャーの予感です。
あにこれでのジャンル分けを見ると、癒し、日常系、料理、ガールズトークなどに目が行きます。
でも、本作の魅力はもっと違うところにあると思います。
それは「今まで誰も見たこともない景色を見せてくれた」ということです。
ゆるキャン△と冬キャンのギャップ。
これは、ほのぼのさととっつきにくさの饗宴です。
野クルとソロキャンの共感。
これは、和気あいあいさとストイックを好む雰囲気の融合です。
野クルのメンバー、志摩リンと斉藤恵那、顧問の鳥羽美波、それぞれの家族の関係性も出色で、彼女らの生き方や主張は相互に肯定されながら、こまごまと配慮や支援もしてくれています。
まさにキャンプを通じて引き合わされ、緩やかにつながる絆ですが、それは確かにそう呼んでもいいものだと私は思います。
ギャップも共感も抱き合わせての生き方はとても人間らしいと思います。
その処方は、先の2作ほどの強い動機は必要なくって、それこそ日常の手の届くところに見つけられるものです。
その気づきと、一歩踏み出す楽しさを身近に感じさせてくれることが本作の一番のストレングスです。
富士山が見える場所というのも心憎い演出です。
浩庵キャンプ場は以前からのお気に入りです。いまでは "超" が付く有名なキャンプ場になりました。
もちろんとっても嬉しいですし、たくさんの方々に訪れていただきたいなと思います。
そして、富士山と同じくらいそれぞれ地元の海山、川野も好きになってほしいです。
日常とのギャップと、非日常への共感がキャンプの醍醐味なのです。
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彼女らのワクワクするような日々は、さまざまなレギュレーションを乗り越えていきます。
その取り組みそのものが、目の前のシンギュラリティへの気づきへのエンパワメントです。
ゆるキャン△が表現しようとしたもの。
それは our extra season.
美しい風景へと背中をそっと押してくれるのです。