薄雪草 さんの感想・評価
4.2
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
オーガニック
先日、ご紹介をいただいてカズオ・イシグロさんの新刊「クララとお日さま」を読み終えました。
さすがになかなかの良作で、一足早く、温かな春を心に届けてくれました。
本作のファンの方にもお勧めできる内容です。どうぞ手に取ってお読みになってみてください。
さて、本作では、人と人型アンドロイドとのエキセントリックにかけ合うストーリーが随所に描かれます。
若干、ナーバスな展開を見せてくれるのですが、それはロボットのような片道一方通行的なコミュニケーションではないから、です。
ではなぜ、人はロボットに飽き足らず、わざわざ人型アンドロイドを欲し、コミュニケーションを図ろうとするのでしょうか?
「プラスティック・メモリーズ」ではアンドロイドは "ギフティア“ の名称で表現されており、まるで贈り物を暗喩させるような存在でした。
前提として有期限なそれは、設計上の設定枠なわけです。つまり、決められた時間で折り合いをつけるためのものであり、いずれは別離を迎えるという人としてのさがが織り込まれているのです。
本作では、その折り合いを「イヴの時間」という意味深な設定で表現しています。
その地下室への入り口は、世の中の片隅にしつらえられたアンドロイドのための憩いの場であり、人たる姿の本質を自らに求める祈りの場です。
そして出口としての意味は、人が自らの存在に問いかけをするための実験地、アンドロイドの人たる姿に自らの自己をアジャストさせるためのロードマップです。
小さなきっかけ作りだとは思います。
でも、そのきっかけがなければ、新しい出会いも、気づきも、成長も、そして人としての喜怒哀楽も、ついに中庸の精神も、得られないことが多くあります。
AIの自律性が最大限発揮されるのは、人の精神性のなかにヒントがあります。
それは、お互いの交流のなかに芽生える心的な価値観であり、生活のお作法の中で涵養されていく評価だと気づけるでしょう。
人とコロナとの共存生のさなかにあって、ワクチンという手立ては、目の前の共存性への重要な足がかりです。
近い未来においてアンドロイドとの共存生の可能性は大なるものでしょう。
だとすれば、彼ら彼女らとの共存性に、どのような手立てや足がかりを見出すのかは、善悪とか必要不必要とかの議論ではない次元での有用性、存在価値を定めるためには避けては通れません。
ここはひとつ、そんな対話を重ねることから始めてみませんか?
イヴレンドに寛ぎながら。
あなたとわたしで。