フリ-クス さんの感想・評価
4.0
物語 : 4.5
作画 : 3.0
声優 : 5.0
音楽 : 3.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
能登麻美子、魂の17秒
{netabare} 10年以上も前の作品(名作)だし、
みなさんがそれぞれ魅力を語り尽くしているので、
いまさら僕ごときが何を言うんだ、て感じです。
でも、一か所だけ、
どうしても語りたい場面があるので、
おめこぼしくださいませ。
それは、あまりにも有名なシ-ンなのですが、
2nd season第八話Bパ-トのラスト、
爽子が風早くんに思いを告げに行くところです。
風早くんのいる教室の前で立ち止まった爽子は、
扉を開けるまえに
モノローグで「届け」という言葉を三回唱えます。
その尺、約17秒。
そして、そこで唱えられる「届け」が全部違うんです。
ひとつめの「届け」は、まだ『願望』の域を出ていません。
それがふたつめになると、はっきり『意志』の形をとります。
そしてみっつめは、胸が苦しくなるほどの『情熱』。
初めて聴いたときは、
思わず息をするのを忘れてしまいました。
なんという表現力。そして言霊。
わずか三文字の言葉に、
それまでの32話でつむがれてきた、
爽子の成長と切実な思いが凝縮されています。
ひとつめの「届け」すら、思うこともできなかった初期の爽子。
友だちやライバル(くるみ)との関係性や支えで、
ようやくふたつめの「届け」を自覚できるようになった爽子。
そしてついにみっつめ、本物の感情を手にいれた爽子。
それらが、完璧にこの17秒、
たった三文字の言葉の繰り返しで、
完璧に語り尽くされているんです。
名演の多い能登麻美子さんですが、
この17秒のお芝居は、
その中でも特筆に値する名演中の名演です。
もちろん、原作・脚本がよかったのはありますが、
だからと言って誰にでもできるお芝居じゃない。
役者が体現できる『言霊』の一つの到達点、
と言っても過言じゃないと僕は思っています。
機会があれば、ぜひ、ヘッドホンで聴き返してくださいませ。
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ちなみに『四月は君の噓』のなかで、
早見沙織さんが「響け」と三回繰り返すシーンがありますが、
あれはオマ-ジュとして成立しない、
聴くに耐えないほどの下品な演出でした。
まず、三回唱える間に感情の『振り幅』がない。
最初から感情むき出し・全開の演奏をしているわけですから、
演者にしたら感情の振りようがないんです。
ただ言葉が似ているだけで本家とは全く別物、
劣化版コピーにしかなっていません。
そして、それを能登さんに基礎声質が似ている早見さんに演らせたこと。
しかも本家の能登さんが、
作品のキャストとして参加しているのに。
そんなの、声が似てるからと言って
LiSAさんの前で『炎』を歌わされるようなものです。
しかも劣化版の衣装を着せられて。
もちろん早見さんには何の罪もありませんし、
能登さんは、人格者だと業界人の多くが囁くほどの方ですから、
しこりを残すようなことはないのですが。
でも、さすがにカチンときたんでしょうね、
作品内での能登さんの演技は、鬼気迫るほどすごかった。
メインキャストを喰らい尽くす勢いでした。
早見さんとかぶらないようウィスパーボイスを封印し、
声質を丸ごと変えているのに、
あの表現力、迫力、そして慈愛に満ちた言霊。
完全に能登さんの『勝ち』でしたね。
無神経な製作・制作の連中をぶっ飛ばしていました。
能登さんってやっぱり、
声優と呼ばれる役者業界における、
一つのアイコンだと思います。
これからも素敵なお芝居を聴かせてくれることを、
心より期待しております。 {/netabare}