フリ-クス さんの感想・評価
4.6
物語 : 5.0
作画 : 4.0
声優 : 5.0
音楽 : 4.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
役者(声優)の真価が味わえる作品
一期・二期よりも全体的に評価が低めみたいですが、
僕的にはシリーズで一番好きな作品です。
メインキャストの芝居を聴くだけでも一見の価値アリかな、と。
これは二期中盤から顕著なのですが、
メインキャラの発する台詞のほとんどが
「本当に言いたいこと」じゃなくなっています。
で、その「本当に言いたいこと」は、
モノローグですらほとんど直接的な言葉で語られません。
だから個々の会話が、もどかしいし、虚ろだし、痛々しい。
その『もどかしさ』『虚ろさ』『痛々しさ』を、
メインキャラ自身が一番感じながら物語が進行していきます。
そして、そういう構成だからこそ
たまにこぼれる『本音』の言葉力がものすごい。
まさに役者の真骨頂です。
第六話Bパ-ト最後、東山さんの「終わらせないで」なんか、
ぜひヘッドホンで、噛みしめて聴いて欲しいな、と。
さらに、台詞の端々がメタファーになっていて、
役者は『言葉の裏にある感情』を表現しなくちゃならないのですが、
その感情が単一ではなく綾のように折り重なっているんです。
たとえば東山さんが演じた由比ヶ浜結衣の場合、
①主人公への恋愛感情
②その感情を抱き続けることの雪乃への後ろめたさ
③雪乃に対する嫉妬と全幅の友情
④主人公を譲ろうとする雪乃への反発・いかり
⑤どうあっても自分は選ばれないだろうというあきらめ
⑥あきらめきれず固執する自分への内罰感情
みたいなものがぐちゃぐちゃに折り重なっているんです。
だから言動が矛盾するし、言葉が虚しくなる。
そのあたり、東山さんはきっちりと、
繊細すぎるほど繊細に演じきっています。
同じ「言いたいことを言わない・言えない」結衣でも、
ぜひ第一期の頃のお芝居と聞き比べていただけたらなと思います。
この演じ分け、東山さん、本当にすごい役者さんです。
そして、一色いろはを演じた佐倉綾音さんがまたすごいんです。
これもぜひ、二期のお芝居と聴き比べていただきたい。
主人公に対する感情の高まりと、
自分は周回遅れだからというあきらめ・割り切り。
それでも割り切りきれない自分に対し、
自力で律そうとする強さ、そして律しきれない弱さ。
それを懸命に取り繕う、自意識と折り重なったやさしさ。
そういう様々な感情や側面を、
その高まりにつれてコミカルな演技に織り込み、
息をのむほど見事に表現しています。
佐倉さんはもともと同世代の役者間では屈指の実力者ですが、
一色いろはは間違いなく、彼女のベストアクトの一つです。
個人的には、この作品のMVPをあげたいな、と。
雪乃を演じた早見さんも、もちろんいい演技でした。
ただ、雪乃自体がかなり『わかりやすい性格』だったので、
ふつうの『いいお芝居』になっちゃった感があります。
とりわけ11話の告白シ-ンは、
丁寧に演じていたけれど『言霊』が弱かった気がします。
だって、あの場面で女の子なら誰だって、
「好き」と言って欲しいし、自分も言いたいもの。
一般論ではなく、雪乃だって、きっと。
もちろん「好きと言わない告白シ-ン」という、
ほとんど史上初の試みであったことは言うまでもありません。
だけど『それを言わない理由』に納得できる女子は少ないのでは。
だから、早見さんも役に入りきる努力はしたものの、
ほんの少しだけ「そうじゃねえだろ」という自分が残っちゃたのかな、と。
その分、12話で改めての告白はガツンときましたけどね。
一発で作品の『色』が変わった。
ほんと、見事なランディングです(予定調和言うな)。
ちなみに、メインキャストに触発されるかのように、
中原さん、悠木さん、柚木さんも、ほんといい芝居してました。
同業者が目の前でいい仕事すると燃えるんですね。
中原さん、悠木さんは実力的に当然としても、
柚木さんがあれだけ演れるって、大変失礼ながら知らんかったです。
でもまあ、それだけ繊細に心情を描き続けた分、
物語の進行がめっちゃスローペースだし、
いちいち『言葉の裏』を推察しなきゃいけないのがめんどくさいし、
一期・二期に比べ『万人受け要素』が減っているのは確かです。
名演必ずしも名作とはなりがたし、みたいな。
ただ、これほどキャラの心情を追い続ける作品って希少だし、
前作とは『別物』と考えて、
じっくり腰を据えて『聴いて』欲しい一本であります。