ぽに さんの感想・評価
4.8
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
視聴者に「どこまでフィクションを許容するか」という選択を迫る作品
本作の見所は、常に劣勢な状況から、西住みほとその仲間達が繰り出す奇想天外な作戦で勝利を掴み取る、その創意工夫にあります。戦車戦を流し見してしまうと、そういったものを感じ取ることが出来ません。
平成以降のスポーツもので人気のある作品には、ある法則があります。それは、「異なる価値観が違和感なく共存している」ことです。
例えば――
・スラムダンク/ロウきゅーぶ!「バスケットボールとヤンキー/ロリ」
・弱虫ペダル「ロードレースとオタク」
・テニスの王子様/咲-Saki-「テニス/麻雀と(超)能力」
スポーツはルールに則って行われますが、ヤンキーの喧嘩にルールがあるとは思えません。また、高さが必要とされるバスケに小さい女の子というのは、どう考えてもミスマッチな組合せです。
しかし、実際には起こりえない(起こる確率が極めて低い)ことを上手くプロットに活かし、カタルシスに繋げていく――ガールズ&パンツァーは、まさにこの流れを汲む作品と言えます。
この作品は「エンターテインメントのためならフィクションはどこまで許容出来るのか」を、かなりの難易度で視聴者に試してきます。
水と油のように相反する「戦車と女の子」を溶け合うようにするため創作された「戦車道」という設定は、非常に秀逸です。しかし、それと同時にこの設定は奇抜であるため、この設定をフィクションとして受け入れられるかどうかがこの作品を面白いと思えるかどうかの最初のハードルです。
次のハードルは、砲弾の扱いでしょう。作品内では競技の安全性が強調されていますが、ほとんど常に身を乗り出している西住みほや他の車長たちに流れ弾が当たる可能性は0じゃありません。
「全然弾が当たらないのはおかしいじゃないか!」
と疑問を持つのはもっともなことだと思います。しかし「ウルトラマンが家やビルを次々となぎ倒してる! どう考えても死人が出てるだろう! だからウルトラマンはけしからん!」という批判はあまり聞きませんよね。
ガルパンの世界では、人に弾は当たらないんです。このフィクションを受け入れられるかどうかが第2の試練です。
逆説的な説明になりますが、柔道は受け身の体勢をちゃんと取れなければ最悪死に至りますし、自転車競技も落車すれば死ぬ可能性はあります。しかし、現実において死亡事故はほとんど起こりません。戦車道も同じことです。「滅多に弾は当たらない」と西住みほの言う通りかと。
他にも色々ハードルが存在します。女子高生達がたった半日で戦車を動かし、弾を撃って、的に命中させ、なおかつ撃破出来る訳がない。女子高生達がたった一日で戦車数台を完璧に整備した上で、性能向上出来る訳がない。結成数ヶ月の、しかも経験者がたった一人しかいないような素人同然のチームが全国大会に出ていきなり優勝出来る訳がない。
これらは全て正論です。現実なら。
これらを全て許容出来る広い心を持って、初めて「ガルパンは良いぞ」と言えるようになるのです。
そして、それだけ広い心を持っているのですから、登場人物達に感情移入出来ない訳がありません。廃校を阻止したい、留年を免れたい、強い自分になりたいなど、登場人物が戦車道に打ち込む理由は様々で、1クールという短い尺の中でそれらを上手くまとめて表現されているのは素晴らしかったです。
「やっと見つけたよ。私のアニメ道」
いつかこんなセリフを言ってみたいと思った一作でした。