いこ〜る さんの感想・評価
4.4
物語 : 5.0
作画 : 3.5
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
雪が解け、そして雪が降るまで
平成名作振り返り祭り開催中!
はあつさんからお勧めされていて、いつか見ようと思っていた作品。
ちょうどクールの終盤で視聴作品が絞られて時間ができたのと、仕事が忙しいのでアニメに逃避したい心が重なった、そんな惑星直列的な中での一気見だった。
大筋としては北原春希、小木曽雪菜、冬馬かずさの三角関係を丁寧に描いた学園恋愛ものだ。元はPCの18禁恋愛アドベンチャーゲームで、ただアニメはプレステ版を原作にしているとの事、ゲームもやってみようかなと思うくらい面白かった。
2013年秋クール放映なので、色々とちょっと古いが、そもそも自分がもっと古い人間なので特に気にならなかったし、何よりハーレムや残念ヒロイン、チョロインが全盛の今、一筋縄でいかないリアルなキャラクター造形をした上に、ガッツリ三角関係なのがかえって新鮮だった!
「胃が痛くなる」とのコメントが多いのも全く肯ける話で、確かに中盤以降なかなかキリキリさせてくれる。
{netabare}
人間関係の構図はほぼ“true tears”と言っていいだろう。
高みへ導いてくれる乃絵タイプの冬馬と、愛が深い比呂美タイプの雪菜との三角関係。
まあ、冬馬は乃絵みたいな不思議ちゃんではないし、雪菜も比呂美ほどフィジカルではないから、性格付けまで含めるとだいぶ違うのだが。{/netabare}
==========
この物語の最大の長所は(実に当たり前なことだが)ヒロイン二人が春希を好きになる過程がきちんと描かれ、且、それに納得できるところだろう。
{netabare}
まず前提として、雪菜も冬馬も囚われの姫君だったのに同意いただけるだろうか?
雪菜は学園のアイドルとして振る舞わざるを得ない自分と一人カラオケをしている様な現実の自分の乖離に、冬馬は親の名声とその親に捨てられたという認識からくる孤独に、それぞれ囚われており、それからの解放者である春希が白馬の王子だったわけだ。
春希はこれらヒロインの事情にはまったく忖度せず、空気を読む様なことや特別扱いを一切しなかった。特に序盤の雪菜との出会いあたりでその態度が顕著で、そう扱われることに雪菜が心を動かされている描写をさりげなく積み重ねていくのが見事だ。
冬馬の場合は非常にかっこいい登場の仕方をして、まず視聴者の心を掴む構成になっているのがうまい。
物語の構成上、彼女の背景は後半にならないとわからないのだが、それまでの間、視聴者が冬馬を好意的に見てくれているので、なぜこいつが?とはならない作りなのだ。
そうして前半は意図的に伏せられていた冬馬サイドの馴れ初めは、まるで氷がゆっくり溶けていく様を見るようで、暖かくもありもどかしくもある物語で、視聴者の心を打ち削っていく。
なぜなら既に春希は雪菜のものだったから。{/netabare}
==========
もう一つの長所?と言うべき点に『誰も幸せにならない』なんとも言えない終わり方がある。
現状我々は不幸耐性が落ちており、バッドエンドの物語は受け入れられない傾向があるなか、よくぞ不幸を語ってくれたと思うのだ。
{netabare}
さて、せっかく語ってくれたこの『誰も幸せにならない物語』、なぜ幸せにならなかったか?を考えてみた。
理由は大きく二つあると思う。
一、嘘
要所要所でみんな本心とは違う嘘をついている。その嘘は、図らずも相手を思いやる心から出たものだったりするのだが、それを聞いた相手が判断を違えてしまうのが問題だ。
象徴的なのが雪菜の「春希くんの事好きだけど、かずさほど真剣じゃなかったよ」という嘘ではないだろうか。これは春希にとって、雪菜からの赦しである以上に、冬馬を抱きしめる免罪符にしかならなかったのだから。
だからもし、たとえその時は誰かを傷つける内容であっても、本心さえ語っていれば、相手は判断を間違えなかっただろうに…春希は冬馬を抱きしめに駆け寄れなかっただろうに…と思う。
- - - - - - - - - -
二、叶わない願い
『ずっと三人で!』と、事あるごとに彼らは願ったが、それが不可能なのはわかっていたはずなのだ。
雪菜は自分が冬馬と春希の間に『割り込んだ』のを承知の上で『三人で』と願ったのだし。
冬馬は自分に正直であるには身を引くしか友人を失うかしか選択肢がない状況だったから。
春希は最も手詰まりだ。
本当は冬馬がいればよかったはずなのに雪菜を手にしてしまった、雪菜からの告白を受入れてしまった。しかし果たして、あれを断れる人類男子はいるのだろうか?
いや。そもそも受け入れるにせよ断るにせよ、雪菜が告白した時点で『三人で』いられる可能性は無くなっていたのだ。
それを無理やり保留にしたから不幸が加速したのは否めない。
ゲームはこの先さらに大学生編・社会人編があるとの事だが、アニメは高校卒業の春まで。
春希は冬馬との思いを今更ながら確認し、一線を超えてしまい、冬馬はその思い出を身体に海外留学へ。雪菜はそんな二人を責めず、割り込んだ自分が受け入れるべき運命としたのだろうか?
そして、
名残雪が降る成田の展望デッキで冬馬の乗る飛行機を見送りながら、彼・彼女らの脳裏には、自分たちの最高の時間、学園祭ステージのラストナンバーが蘇る。
その曲名は『届かない恋』
・・・と言うこのラストの見事さ!
なぜ学園祭シーンでラスト曲を見せなかったのかがここでわかる!滅茶苦茶エモいシーンだった。
{/netabare}
==========
以上長々と書いてしまった、そろそろまとめよう。
物語:最近珍しいガチ三角関係のバッドエンド!ややもするとドロドロになるところをうまく喪失の悲しみに昇華していて素晴らしい。
作画:キャラ絵は頑張っていたが、物語の叙情性を補完できるほどではなくいま一歩。
声:文句なし。依緒役の中上育実(ガルパン秋山殿)がなかなかいい感じ。
音楽:OP・EDから挿入歌まで全部いい。ちょっと当時の(当時でも古めの)J-POPっぽくてそこもいい。
キャラ:冬馬派です!異論は認めますが冬馬派です。
さて、諦めて仕事しようかなぁ(PS VITAの中古ソフトをnetで探しながら記す…完)。