ナルユキ さんの感想・評価
4.5
物語 : 4.0
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
内容は忠実に、外観は大胆にリメイクした最高のアニメ化
刀を振るって鬼を斬る。単純明快過ぎるシナリオにアニヲタたちはさぞ鼻で笑い、アニメ化も失敗すると思ったことだろう。そして今日続く歴史的大ヒットに未だ納得がいかない人もいるだろう。ここで1つ問いたい。
良いアニメとはシナリオが良いアニメのことなのか?勿論、全部良ければそれに越したことはないのだがそんなアニメがあるなんて言う人はそのアニメの信者でしかない。
「シナリオが良い」って何なのか?複雑であればそれが良いのか?わからない人が出たらそれは悪いシナリオじゃないのか?
鬼滅の魅力がわかる人もわからない人もちょっとそういうことを頭の隅で考えながら是非私のレビューを読んでほしい。
【ココが面白い:親しみと衝撃を感じる第1話】
時代は大正、贅沢は出来ないものの家族仲睦まじく、細やかな幸せの中に生きていた日本男児が主人公だ。雪に包まれた山から木造の電柱や家屋が並ぶ町へ……作画が別格なので全く一緒のわけがないが、その場面の移り変わりはまるで“日本昔ばなし”のようでいて懐かしさすら感じる。この作品の評価が国内で爆発的に高まったのはまず1つ、自分他たくさんの人が“和”の心を持っている証だろう。
細やかな幸せの象徴たる母親や下の子ら家族が血の海に沈んでいる描写は捻りが少ないながらもインパクトがある。積もった雪の白もあっておぞましい程に血の赤が映えており、一度観たら忘れることはないだろうシーンだ。
日本昔ばなしと昨今、流行りのダーク・ファンタジーと融合して魅せた本作。鬼が出る世界観もあって正に“令和の桃太郎”と言っても差し支えない。主人公が実際に刀を握り鬼と戦うのは第4話からだが、Bパートの義勇に向かって可能性を掲示する兄妹の絆もあって非常に見どころが多い第1話だと評する。
【そしてココがすごい!:アニメ制作最大手が手がけた剣戟アクション】
観てない人も風の噂で耳にしているだろうが、このアニメの最も優れている点は「作画」である。
鬼と戦う剣士たちは“全集中の呼吸”という技で身体を強化し、その状態から放つ剣の“型”で鬼の首を斬る。その剣の軌跡は水の呼吸なら激流、雷の呼吸は落雷のエフェクトが付随される。それが美しい。
{netabare} みんなは19話の累戦で披露したヒノカミ神楽を推すだろうが、自分は9話で魅せた流流舞が1番素晴らしいと思う。吾峠先生には申し訳ないが原作漫画のソーメンとは次元の違う作画だ笑 と笑いごとにすべきではなく、漫画を動的により素晴らしく魅せたこれぞ正しきアニメ化だと誉めるべきだろう。{/netabare}
余談だが制作会社の「ufotable」は業界内では最大手の優良会社だ。外注というものをせず、この作品も「制作委員会」システムをとらず自社のみの出資で作ったらしい(だからクレジットに『○○制作委員会』がない)。誰かに頼まれてではなく会社自身が作りたくて作った、ということだ。
そんなやる気も人員にも満ちた会社が手がけた剣戟アクションは他作品と比べても活き活きとしたハイクオリティに仕上がっており、尺も十分以上にあるので全くダレないのだ。
【でもココがひどい?:キャラの心の声が多い】
欠点を挙げるなら、キャラクターが心の中でだいぶ饒舌で、それが視聴者に全て届けられていることだ。柱合会議直前の甘露寺蜜璃のようにギャグとして活かすのなら全然構わないが、とりわけ主人公の炭治郎がスポットにあたる分、くどめの状況説明を担当するのでそれなりにアニメを観てきた人にとっては不快に感じる部分かもしれない。
例えば1話からそう、炭治郎がおぶった禰豆子に暴れられて高所から落ちるシーン。(助かった……雪で……)と思うのだが、大事に至ってないのは雪にボスッと落ちる1シーン、映像と効果音だけで十分理解できる。これくらいのことを登場人物に口でも心でも説明させるため、わかりやすいことはわかりやすいのだが五月蝿くも感じてしまう。
【キャラ評】
竈門炭治郎
本作の主人公。1話から不幸度が極限に高く、同情という感情移入が真っ先にやりやすい対象だ。
家族を喪ったことから残された妹を命より大事に思っており、妹を守るためなら土下座でも格上に挑むことも何でもする理想の長男。そして他者にも首を斬られた鬼にも優しいケチのつけようがない人格者だ、彼と妹の行く末を応援したくなる。
会得した水の呼吸で放つ剣技は長物で真似したくなるほどかっこいい。
竈門禰豆子
炭治郎の妹で、鬼になってしまった少女。人を喰わない戒めか竹轡を噛まされており、時折「むー」とか「ふー」といった小動物の鳴き声を発するしかないのがかわいそかわいい。
囚われのヒロイン、悲劇のヒロインを任されることもあればバトルパートでバリバリ戦力に数えられることもある。都合がいいキャラとはこのことか。
我妻善逸
炭治郎の仲間となる剣士だが、とてつもなく臆病で自信がない。鼓屋敷での発言は語録に載るほど面白いものばかりだ。
彼の登場でシリアス一辺倒だった作品に初めて「ギャグ」というものが持ち込まれる(先に愈史郎がギャグっぽいことしてるがやや弱い)。シリアスでありコミカルでもある、色んな要素があるジャンプ作品の雰囲気に染める役割を持つのだろう。
嘴平伊之助
炭治郎の仲間。育ての親がイノシシということで典型的な脳筋発言や問題行動が目立つ。彼の手綱を上手い具合に握るのが炭治郎で、二人のやり取りはやんちゃ坊主とオカンのようでいて微笑ましい。
面白いのが伊之助の加入で炭治郎が時折ボケを重ねるようになり、これまでギャグ要員だった善逸がツッコミに回るという化学反応を起こしている点。彼ら3人(+禰豆子)で「かまぼこ隊」と呼ばれるユニットの会話劇はレパートリーが豊富。激しいバトルの合間に是非ほしい箸休めだ。
響凱
この作品の鬼は鬼舞辻無惨という男によって堕とされた元人間であり、その経緯は時折、回想として触れられる。単純な手法だが敵にも感情移入ができるようになっている。{netabare}
自分がとくに印象に残っているのが太鼓の鬼──響凱。誰かに何かを認められたい男は小説、鼓と順に否定されたことで鬼に堕ちてしまう。しかし鬼化させた無惨からも見限られてしまってるのだから実に哀れだ。
稀血の子を巡って炭治郎と相対した響凱は唯一、鬼が使える血鬼術を褒められる。悲願の達成だ。しかし直後に「人を殺したことは許さない」と言われてしまう。どれだけ何かに優れても人殺しは軽蔑される。当たり前の話だ。しかし人間のままでは満足した生を送れなかっただろう。
響凱は鬼になって良かったのか悪かったのか……ハッキリと言い切れる視聴者は恐らくいない。{/netabare}
【総評:内容は忠実に、外観は大胆にリメイクした最高のアニメ化】
単行本と見比べることも多いが、あらゆるシーンが別格に生まれ変わっていた。原作ファンなら色や音がついて動いてくれればそれで満足するところを、ufotableが「fate」シリーズのノウハウを活かし動的な最高級作画として提供してくれた。それも2クールもだ。バトル漫画家なら誰もが羨むシンデレラストーリーと言える。
さらにキャラクターデザインが原作から大きく変わっていてそこも高評価の理由だろう。全体的に丸みを帯びさせ身体の輪郭を黒く縁取ることで原作漫画にはない親しみやすさを滲み出している。
楽曲も素晴らしいものばかりだ。OP・EDともにLiSAを起用しパンチ力ある歌声がよく動くアクションアニメや主人公の過去と現在を振り返るダイジェストにマッチしている。ビートのみでなく『竈門炭治郎の唄』の子守唄のような曲調でもその歌詞とシチュエーションのシンクロで激戦の挿入歌として成立させるセンスには脱帽だ。BGMは梶浦由記の音楽性から和風とこれまでの名作アニメの雰囲気を感じさせてくれるので、どれも気持ちが昂った。
一方、内容だけに注目すれば「剣士VS鬼」というシンプルなシナリオが続き、人によっては「単純」とか「底が浅い」なんて言葉でなじる奴もいるだろう。しかしそれは逆を言えば「話がわかりやすい」という長所に言い換えることができないだろうか。
主人公の目的は第1話からハッキリしている。「家族の仇を討つこと」と「妹を人間に戻すこと」だ。その手段として2~3話で修行をしっかりと積み、徐々に強くなっていく。ジャンプの3大原則の1つ、“努力”の描写だ。もしかしたら修行シーンでダレかけるかもしれないが、序盤に1時間、終盤に1時間の尺を修行にあてがうことで主人公ら鬼殺の剣士の強さに説得力が出てくるだろう。あのド派手なアクションが出来る人間たちだと納得できるのだ。最近はひょんなことからチート能力を授かり異世界を無双するという作品も人気になってきたが、そちらの方に反吐が出てしまう人には鬼滅の刃がうってつけだろう。
“友情”の描写もバッチリだ。{netabare}那多蜘蛛山での炭治郎と伊之助のタッグで操り人を傷付けず母蜘蛛鬼を倒す一連の流れは尊さとカッコよさの感動を覚える。{/netabare}“勝利”はもちろん、強力な鬼の斬首にある。ジャンプの3大原則をきっちり意識した作品は内容に捻りが無くても十分に面白い。心が沸き立つ熱い展開ばかりだから。それが“王道”だ。
邪道はびこる時代も王道は面白い。そんな主張を見せるような真っ直ぐな展開をこの作品は描き続けた。残念ながらマンガだけではそこまで評価されていなかったようだが、アニメ制作最大手や名アーティストの御眼鏡に適い、本作品はアニメで2019年最大のヒット作となった。その結果に私は非常に納得している。