「妄想代理人(TVアニメ動画)」

総合得点
70.6
感想・評価
802
棚に入れた
4196
ランキング
1526
★★★★☆ 3.6 (802)
物語
3.7
作画
3.7
声優
3.6
音楽
3.7
キャラ
3.6

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ネタバレ

蒼い✨️ さんの感想・評価

★★★☆☆ 2.7
物語 : 1.5 作画 : 3.5 声優 : 3.0 音楽 : 3.5 キャラ : 2.0 状態:観終わった

針小棒大。

【概要】

アニメーション制作:マッドハウス
2004年2月2日 - 5月17日に放映された全12話のTVアニメ。
監督は今敏。

【あらすじ】

ストレスだらけで人間の心が疲れ切った現代社会。
キャラクターデザイナーの鷺月子(さぎつきこ)は、
22歳にしてデザインしたマスコットキャラクターの犬のマロミが、
人々の心を癒やす超人気キャラとして社会現象を起こしたことで有名人になっていた。

だが、マロミの誕生は殆どまぐれ当たりみたいなもので、ヒットメーカーを強いられて、
次のキャラを望むクライアントに急かされた上司からかけられた期待の言葉の数々。
そして、成功者への同僚からの妬みなどの周囲からの視線や称賛は、
デザインの糸口すら見出せない月子への重圧となっていた。

その追い詰められた月子が夜道で通り魔に襲われるという事件が発生。
病院に訪れた警察の猪狩(いかり)と馬庭(まにわ)による事情聴取で、
月子は、バットを持った小学5~6年生ぐらいの子供に襲われたと証言する。
それからというもの、追い詰められた人の前に少年バットが現れて襲撃する事件が続発。
この連続通り魔事件を担当する二人の刑事、猪狩と馬庭は捜査を進めていくうちに、
被害者に共通点があることに辿り着くのだった。

【感想】

アニメーションとはエンタメであり、視聴者に感動と興奮を与える手段は、
会社方針やクリエイターによって様々でしょう。

正解はひとつではなくて、自分の感性に合わなかったからといって、
上から目線で踏みつけるだけというのも良くはないのかな?とも思ったり。
それでも、これはねえ…というのが正直なところ。

まず最初に言っておきますが、『妄想代理人』は自分には合いませんでした。

これは、今敏監督が原作者となり自分の思い通りにならない特定の人間らへの愚痴を起因とした、
『おまえらこんな人間になるなよ!』と視聴者に対しての教訓や風刺を説いた寓話アニメであります。

企画意図の詳しくは、『 妄想の一「趣味の産物」 』で検索される、
監督のホームページに書いてありますが、

「言い訳探しに躍起になっているやつをぶん殴って笑おう」
「一所懸命働くのはイヤだが、立場と評価は欲しい」

アニメのお仕事で溜め込んだ人間関係の鬱憤解消なのか?
「なっちょらん連中」にお前らこのアニメを見て改心せえよ!
なメッセージを送りたいのか?

第11話の「進入禁止」にて登場人物・猪狩美佐江の口を借りた、
監督からのメッセージの長広舌をさせたいがための長い長い前置きが本作のストーリー。

連続して傷害事件を起こす少年バットがいる。
ので犯人逮捕を目的に事件を追う刑事モノかと言えば実はそうではなくて、
監督お得意(ワンパターンとも言う)の夢と現実が混ざり合った世界を通して、
現実から目を背けて逃げた人間は夢の世界に轢き潰されることを表現した、
監督であり原作者でもある今敏氏の視聴者に対してのメッセージを目的とした寓話ですね。

ある意味ゴーマニズム宣言にも似た「吾輩」の主張で、言わば「責任論」。
登場人物は主張をわかりやすく伝えるための人形。

視聴者や読者を気持ちよくしてキャラが愛されるフィクション作品とは、
ヒーロー物でも恋愛物でも、言葉や行動にキャラの信念を感じて好意を抱く。
人を愛する素晴らしさ、肉親の血の絆、友人関係の尊さ、
そのキャラの心に触れて瞳の輝きに居心地の良さを感じるもの。

一方でこちらは画面の中の映像と視聴者である自分の間に、くっきりと境目が見える。
視聴する人間をあくまで「世界を俯瞰して眺める傍観者」に徹しさせた群像劇。

この物語の世界は不格好で死んだ魚のような目をした登場人物らで作られています。

序盤数話はオムニバス形式でその話の主人公が状況に圧迫されて、
ストレスで押し潰されて「助けてくれ!」と限界が訪れたとき、
水戸黄門の後半のチャンバラシーン的なお約束感覚で少年バットが現れる。

自分自身に負けた負け犬を作って、負け犬をぶん殴る!これがこのアニメの正体なんですね。

キャラの扱いは監督による魚の活造り実演ショーのよう。

妬まれる月子には友達がひとりもいなく他人の好意は打算の偽り。同僚の女どもは全員陰湿。
人気者の少年は冤罪で一瞬で嫌われ者になり、
ちやほやしてた連中は手のひらを返して誰一人として無実を信じてくれない。
秘密を隠したまま平穏な結婚を望んだ女性はその罪で焼かれるように心が壊れていき、
彼女との結婚を望んだ善良な男性もまた、ある問題に直面して壊れていく。
二次元オタクを気持ち悪い風貌で現実に帰ってこれない精神病患者のように描き、
慕っていた父親に裏切られた娘もまた、絶望で自殺を考えて遂には脳が現実を拒絶する。

『PERFECT BLUE』でも見られた傾向ですが、抑圧一辺倒の状況で安らぎからは程遠く、
心の底から信じられる人間がひとりもいなく、信じれば最悪の形で裏切られる。
他人からの好意もまた歪んだおぞましいものとして度々扱われることから、
自立した人間が好ましく他人への依存は甘えであるという前提が、
作り手の根底にあるのでしょうね。

アニメの中の歪んだ現実と対になるように、
フィクションの世界の美しいものを薄っぺらい夢まぼろしとして扱い、
現実に向き合わずに、そこに逃げたり溺れたりするものを許さない。

唯一の人情物作品である『東京ゴッドファーザーズ』が異質な存在なのですが、
あそこまで嘘くさい夢物語成分を織り交ぜないと優しさを描けないのかもしれません。

この監督作品共通のオタク嫌い表現であれ、自身の自意識と美意識にそぐわないものを、
弱いものや醜いものとして叩く。他罰的な思考が根底にあるからこその表現だと思いますね。

「逃げるなー!」「逃げた結果こうなった」

被害者の行動と少年バットの関係が物語の伏線として意味があることを理解するにしても、
単純にお話としても面白くもない。

序盤は、不安と緊張で視聴者の心を宙吊りにする露悪なサスペンスショーとしては評価できるものの、
作品世界の神である監督様の架空の女子供キャラに対してのサディズムな面が強くて、
エンタメとしてどうなんでしょう?

暴力と緊張を娯楽としたサイコホラー映画の、
『テキサスチェーンソービギニング』がアメリカにありますが、
あのイカれた殺人鬼にひとりひとりが踏みにじられて残酷な死を迎える創作物を嗜んでおけば、
このアニメでやっていることなんて全然甘いだろうとも思えるのでしょうけどね。

他方で少年バットに殴打されるおじさん男性キャラときましたら、
露骨にゲスさが丸出しであったり、実際に犯行をする様子がイキイキと描かれていて、
わかりやすい罪をみせつけていて、追い詰められていくのも自業自得。
クズだらけながらもコミカルにその様子が描かれて悲壮感が薄く、
女子供キャラとの扱いの差に甘やかしが見られるなど、温度差が気になりましたかな。

クリエイターにはAにはAの、BにはBのやり方と個性があって、
自分の好む演出や作劇と異なるからと作品を全否定するのは野暮であると思いつつも、

「言い訳探しに躍起になっているやつをぶん殴って笑おう」

↑これとキャライジメになんの関係がある?という疑問が個人的には勝ってしまいました。

「これが人間のリアルだ!素晴らしい!!」と絶賛する人がいましたら、
展開に納得できるだけの実体験とシンパシーが本人にあるのでしょうが、自分には無理でしたね。

リアル = 現実でもよくある事
リアリティ = 非現実な場面でも皆理にかなっている行動をしていること
リアリティが無い = リアルじゃないではない…

ギスギス成分が強めの作品世界であれば、登場人物を阻む強力な理不尽や障害があれば抗う話。
アニメであれ、そっちが主流でユーザーもそっちが気持ちよく見られるでしょう。
序盤数話の絶望を与えられて作者に踏みつけられるだけの理不尽な話が描きたいから、
ホラーの体裁を借りて現実的な対話や解決を描くことから逃げた、少年バットはまさに作者の分身。

やさしい世界の作品であれギスギスしてる作品であれ、
キャラ同士がそれぞれの考えを持って交流し合う作品は、
ちゃんと道筋やキャラに共感、納得、理解できるように考えられてるのが分かる一方で、

『妄想代理人』は作者の現実での不満解決の代わりとして、
アニメの中にサンドバッグキャラを作ってぶっ叩いて苛虐している悪趣味に過ぎない。
砂を噛むような人間関係の描き方のそれは、果たして実のある物語であると言えるのでしょうか?

最終回で水洗トイレのように黒いものに流されてゆく人々(負け犬)を見るに、
ああ!この人にとって自分が生み出したキャラは自分の心を吐露する道具であると、
ただただ今敏監督渾身のシャドーボクシングを眺めているに過ぎないというのが正直なところですね。

ヒーローは安っぽく描かれ、可愛さは禍々しく描かれ、
ゲームやアニメなどのフィクションは所詮はニセモノ。
ニセモノに溺れるのは愚民。弱きものは負け犬。

そして戦うのはラノベや漫画にありがちな少年少女ではなくて昔ながらのおじさん。
21世紀の今どきの人間を空虚に扱いながら、
昭和のような昔気質の人間・猪狩夫婦を崇高なものとして、

「おじさん!頑張れ!」「おじさん!ニセモノをぶっ壊せ!!」

ああ!うん?これは、おじさん刑事の猪狩慶一48歳を実質的な主役にして自分の思いを託して、
時代に反感を持ち人間関係にストレスを抱えていた監督が発散するためのアニメなんですね?

そして、名目上の主人公である鷺月子の心の問題に話を繋げて話を締めます。

嫌なもの辛いもの理不尽なもの。生きてれば向き合わなければならないときは度々訪れるでしょう。
だからといってフィクションを楽しむ行為を現実逃避と忌避するのもどうでしょうね?
創作活動を行うものとファンに対して余計なお世話でしょう。

作品によって客層も変わるのでしょうが、自分が観たアニメ映画の観客には、
身なりのしっかりした白髪交じりのサラリーマンもいれば、普通のおしゃれなOLたちもいました。
アニメイトでは、アイシャドウやカーラーやつけまつげなどコスメの商品を普通に売っている時代。

現実に仕事を持って趣味でフィクションを楽しんで活力を貰っている人間は、
『妄想代理人』らに出てきた架空のキモオタら歪なものとは関わりのない世界の住人であります。

人間には、ひとりひとりの人格があって、自分だけの人生に根を張って生きている。
その人生のなかにフィクションでの楽しみを得た人々に当てつけるかのように、
「まがい物への逃避!」(ババーン!!)とアニメを媒体に壁打ちテニスをやられても、
「何言ってるの?」でしかないですね。

このアニメが放送された2004年との時代の差を考えても、
人間ってこんな愚かなんですよ。啓蒙が必要ですよ!とやられても、
それは江川達也の漫画作品みたいに、
十把一絡げに記号化と矮小化をされた架空の愚民でしか無いですね。

『妄想代理人』でやっていることは『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ!オトナ帝国の逆襲』
のアレンジであるのですが、何故あちらの野原ひろしに共感が出来て、こちらは面白くないのか?
製作者の目線の違いが大きいのではないでしょうか?

ブラック・コメディやホラーとして楽しむにはそれなりに意義があるのかもですが、
やはり自分としてはイマイチでしたね。ましてや、「これが人間の真実だ!」と言うには、
デリカシー皆無の大上段の構えで作られた物語はちょっと違うかと…。

クリエイターとしての長所と短所は人それぞれですが、
映像で勢いを見せつけたり、サスペンスな演出は得意なのですが、
繊細に人間を描くという一点では、あまり向いてないということを再確認できる作品でしたね。

最後に、

第8話「明るい家族計画」(ホラーコメディ話)… 終始和やかなのは現実の柵からの解放を意味する?
第9話「ETC」(オムニバス形式のコメディ回)… 単純にギャグが寒くてつまらない。
第10話「マロミまどろみ」(アニメ業界の闇を描く?)… 猿田のモデルの人物がいるんだろうなあ。

↑陰気なだけの話にならないようにコメディのインターミッションが3話連続で入ったりしましたが、
 尺稼ぎ以上の意味をあまり感じられなかったり。

要点だけをまとめれば1時間程度で終わる話を無理やり13回に引き伸ばした内容でもあり、
やはり、TVシリーズには不慣れで劇場アニメの監督なんだなと思いました。


これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。

投稿 : 2021/03/30
閲覧 : 451
サンキュー:

34

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