なばてあ さんの感想・評価
4.7
物語 : 5.0
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
等価性と統一感
原作未読。基本的な評価は『無印』『Ⅱ』『アリシゼーション』のそれに準じる。
ロニエはかわいい。
『アリシゼーション(〜24話)』を見ながら思っていたのは、「SAO」を凡百の「なろう系」とを分かつ最大の特徴である「世界の重層性」が希薄に感じられるということだった、・・・ということはすでに先のレビューで触れたとおり。逆に言うと、この伏線をしっかり回収することさえできれば、このアニメ史上空前の大風呂敷もしっかりと畳むことができることになる。
で、結論からいうと、見事に風呂敷は畳まれていった。それはもう見事だった。見事だったのだけれど、なぜか一抹の寂しさが残った。それはおそらく、風呂敷の内側の意匠があまりにもすばらしく、つまり、アンダーワールドの人びとのフラクトライトがあまりにもまばゆく、それが畳まれてしまって見えづらくなったことへの寂寥感ということなのだろう。
おなじようなことが、キリトについても感じられた。つまり、キリトが復活するまで(〜42話)は、はやく彼が還ってきてほしいとズップリ物語に耽溺しながら視聴を続けていたものの、彼が復活してしまうと、アンダーワールドの人びとのフラクトライトのまばゆさがやや相殺されて薄まってしまったような気がして、切なくなってしまったのである。
「アリシゼーション」の主人公は、誰がなんと言おうと、アリスをおいてほかにない。彼女のキャラ設定は奇蹟と言ってもいいほど、研ぎ澄まされた完成度を誇っている。アリスの存在感を引き立てるためのキリトであって、彼が復活したのちの逡巡等々は、そこまで重要なものではないというのがわたしの見立てとなる。キリトの復活と活躍は爽快感こそあれど、それ以上のものは、無い。
「SAO」のレビューでそんなことを書いてしまうと、これはもう酷評以外のなにものでもないかのようだけれど、そんなことはない。基本的に「アリシゼーション」は絶賛である。正直、『無印』や『Ⅱ』と比べても、わたしはこちらを上に取るだろう。それほどまでに、ボトムアップAIのフラクトライトというテーマの見事さと、アリスというキャラクターの設定の秀逸さは、ずば抜けている。
・・・ということは、すでに『アリシゼーション』のレビューで書いたのでこれ以上は割愛。重要なのは批評性の有無だということ。
さて『WoU(25〜47話)』最大の見所は、#35「非情の選択」におけるリズベットの演説だろう。これはすばらしかった。「SAO」がここを外さないでいてくれるかぎり、わたしはいつまでもこのシリーズを支持できる。『{netabare}電脳コイル{/netabare}』の正統な後継者と認めるにやぶさかではない。
ヴァーチャル世界に賭けられた想像力がすこしずつ練り上げてきた大切な結晶こそがアリスであり、ここにこそ「本当がある」と説くリズベットのメッセージは、とてつもなく大きな射程を持つ。現実と虚構の二項対立で後者を前者の踏台にするような物語が依然跋扈する現在、確信をもって、その両者の等価性を説くことができる作家はけっして多くない。
この川原さんの洞察にもとづくストーリィ展開は、いつもどこまでも価値があると信じているわたしだった。
『WoU(25〜36話)』において特筆すべき点は、後半の「東の大門」における局地戦の精緻な戦局描写である。「{netabare}とあるシリーズ{/netabare}」には望むべくもない、濃厚な戦術的醍醐味が立ち上がる展開は、シナリオと絵コンテの手柄と言ってもいい。ファンタジー作品でこういう微細な勝敗の綾を説得的に描き出せるか否かは、やっぱり分水嶺なのだと思う。
さて『WoU(37〜47話)』で、世界はいっそう重層的に絡まっていく。アンダーワールド内の敵と味方という対立軸が、リアルワールドとアンダーワールドという対立軸となり、アメリカと日本という対立軸がそこに乗り、中国や韓国がさらに要素として絡んでくる。この対立軸をつねにスライドさせながら、アリスやアスナを追い詰め続ける展開は巧みだった。
「アリシゼーション」全体をとおして総括するなら、正直、ほんとうに『無印』『Ⅱ』よりも、こちらのほうが出来が良いと思う。なぜなら『無印』は後半がやや間延びするし、『Ⅱ』は前半と後半の落差がちょっと気になる。「アリシゼーション」は全47話と大長編であるにもかかわらず、テンションはつねに持続し、かつ、前作や前々作と重なる重要な主題を、前作や前々作とは異なる切り口でしっかり描ききっていてその、統一感にしびれざるをえない。
次回シリーズへの「引き」はちょっとズルすぎる気もするけど、でも、シロクロで割り切れないエンジニアのサガというものの弊害が、物語の綾として機能しつづけるのは、やっぱり巧みだなあと思う。ほんとうに構成がよく練られている。この破綻のなさすぎる点こそが、瑕疵といっても差し支えないほどに。
あ、瑕疵、あった。#38かな、ベルクーリとベクタのバトルで、めずらしく描線が暴れていた。もちろん、バトルシーンで意図的に描線を乱して戦闘の緊迫感を演出する手法は、すでに確立されている。確立されているのだが、SAOではこれまでこの手法は使われてこなかったので、ちょっとびっくりした。作画ヲタを自認するわたしだけれど、SAOにはこの作画は似合わないんじゃないかなと思った。まあ、些細なことだけれど。
それと、ロニエがかわいい。
衝撃:★★★
独創:★☆
洗練:★★★★☆
機微:★★★★★
余韻:★★★★☆