101匹足利尊氏 さんの感想・評価
4.3
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
人間は欠落してこそ満たされる
残留思念を採取し構築した、
無意識の殺意の世界「イド」にダイブ可能になった現代日本。
連続殺人犯の深層心理から事件解決を目指すSFミステリ。
【物語 4.5点】
特級品の刺激物。
いきなり常識が通用しない「イド」に放り込まれ、
世界の法則解明から、命知らずのアクションも交えて
事件解決を目指すスリリングな展開。
{netabare}入れ子構造。
一連の事件で暗躍するジョン・ウォーカー。
名探偵が「カエルちゃん」の死の謎を解明するという
「イド」の定型ルール自体に潜む謎。{/netabare}
倫理に縛られない踏み込んだ作風による
目眩がする位の自由に酔い痴れる1クール。
後で考察しても中々答えが出ない噛み応えのある要素もあるが、
入り組んだ設定、シナリオ下でも、
視聴者を大筋理解へと誘導し、風呂敷を畳む構成もお見事。
【作画 4.0点】
アニメーション制作・NAZ
少数精鋭。物量で押せないため、人物作画の安定度等は凡庸。
が、独創的な殺意の世界を、受容可能な映像として確立した構想力は驚嘆に値する。
作画カロリーをケチらず、
こだわりたい表現にトコトン投入することで、作品を一層尖らせる。
私が印象に残ったのは、{netabare}“対マン”との対決シーン。
磨き上げた格闘術を淡々と繰り出す異様な迫力。
殴殺を繰り返す“対マン”は卑劣ですが、
そのスタイルへの執着は本物でした。{/netabare}
【キャラ 4.5点】
深い。
特に深層心理から構築された鳴瓢(なりひさご)辺りは底なしの深さ。
その奥底で噴出した哀しみは涙を誘います……。
意識レベルで共鳴する人物相関も常識外れだが刺激的。
現代科学が掬(すく)い切れない何かを発掘し、妙な説得力がある。
私が好きなカップリング・ベスト3は……
{netabare}穴井戸&聖井戸の穴をあけて新たな自己の解放体験を共有するコンビ。
ラスト、{netabare}飛鳥井木記をいつか必ず救い出すと決意表明した百貴室長の矜持。{/netabare}
百貴室長→鳴瓢に対する元同僚としての親近感と、
殺人犯に堕ちた彼への悔恨が入り混じったドライな「イド」“投入”采配。{/netabare}
深層心理分析まで飛躍した科学捜査に食らい付く昔気質な外務分析官・松岡も渋い。
「ワクムスビ」なんか無くたって、部下の異変は元刑事の勘でしっかり察知します。
ポンコツwと思われたキャラが数学で挽回するのも本作らしい。
{netabare}即死の名(迷)探偵・穴井戸とか、
名探偵・酒井戸の名推理に取り残される若鹿くんとか。{/netabare}
【声優 4.5点】
収録はアフレコ(作画の後で収録)
が、本作の狂気は、役者の自由な演技を引き出すため、
作画の口パクを一切気にさせず演じさせたこと。
当然、アフレコ後、人物作画等には修正入るし、
声優さんの気持ちが入ってカットが伸びれば調整も入る。
アフレコとプレスコ(収録してから作画)の良いとこ取りが可能になるが、
限りある作画カロリーは大量消費。
かくして作画評点は声優評点の犠牲になったのであるw
通常の評価方法では測定不可能。この点でも本作は規格外。
常識破りのオーダーに並の声優ならば狼狽える所。
だが絡み付くようなボイスで追い込む鳴瓢(なりひさご)秋人役の津田 健次郎さんや、
{netabare}肋骨折れても{/netabare}怯まぬ正義ボイスを貫く
百貴船太郎役の細谷 佳正さん等はむしろ嬉々として演じられたのだとか。
本作に、お二方がいて本当に良かった。
【音楽 4.0点】
劇伴もまたジャンル横断のフリースタイルで「イド」を躍動♪
高まったボルテージが主題歌、挿入歌へと突き抜けるハイテンションな構成。
OP主題歌「ミスターフィクサー」のSou。
ED主題歌「Other Side」のMIYAVI。
他、エッジの効いた男性ボーカル&サウンドを突き刺して来る
エキサイティングなアーティスト陣。
その中でも一際、存在感を放つのが、
最多4曲を提供した“サムライギタリスト”MIYAVI。
私のお気に入りは「Samurai45」
“いざ 参ろう♪いざ 参ろう♪”のフレーズが、
英語歌詞中でも違和感なく溶け込む衝撃w
【感想】
最近の事件は訳が分からない。事件は社会の反映。動機の解明が待たれる。
耳にタコが出来るほど聞かされたニュースの定型句。
ブラックボックスである殺人犯の深層心理解明は、
これら長年の悲願の成就であるはずだが、
いざ表現されると、見え過ぎて、
度のキツい眼鏡をした時のような目眩を覚えます。
本作からは全知全能に対するアンチテーゼも感じます。
例えば(※核心的ネタバレ連発)
{netabare}頭に穴を開けて数唱障害から解放された穴井戸とか、
欠損した物が整って見える障害及び異能を獲得した小春とか。
真犯人に全知全能の神話を夢想させたのも象徴的なら、
犯人自らに、完璧な神話を無意識に追い込むカードを用意させたのも皮肉めいています。
飛鳥井木記もまた神に近い能力故に今は眠るしかなかった悲劇とも取れます。{/netabare}
大体、人の本心に潜ること自体、人間には過ぎた禁忌。
不完全な人間は全能など目指さず、
欠損から何かを見出す方が幸せになれるのかもしれない。
そんな着想も浮かんだ刺激的なSFアニメ鑑賞でした。