まつはや さんの感想・評価

3.5
物語 : 3.0 作画 : 4.5 声優 : 3.0 音楽 : 4.5 キャラ : 2.5 状態：観終わった

一流シェフが西友の食材でカレー作ったらやっぱり美味しい

つまり「平均以上の素材を能力あるスタッフが時間とお金を入れて作り上げたら、期待どうりそれなりの作品が出てきた」という感じです。

異世界に転生した引きこもり主人公が「ルーデウス・グレイラット」として様々な人々や環境の中で第二の人生を歩む物語。

まず印象に残るのは丁寧な「異世界」の描き方です。全体的に背景美術や劇伴の質が高いことはもちろん、異世界言語を一から構築し字幕を出しつつ喋らせるといった手間のかかった試みもあり、この新たな世界は、引きこもりだったルーデウスが「本気で生きよう」と決心するに足るような物なのだという部分に説得力を持たせています。
個人的に「宝石の国」の劇伴が好きだったので、藤澤さんの仕事に触れられたというだけでも満足感がありました。戦闘時にもろ宝石の国を彷彿とさせる音楽がかかった時はテンション上がりましたね。

さて肝心のシナリオ関してなのですが、こちらは正直安定してはいるものの特出したものはないという印象です。話によると原作は相当ボリュームがあり今回はその序盤も序盤を軽く触っただけとのことらしいのですが、今期はオリジナルアニメの良作が多く、ワンクールのいう制約の中で起承転結をつけるべくガンガン物語が展開しているそちら側と比べると、どうしても展開のゆったりさを意識せざるを得ませんでした。

また本作の主人公はかなり好みが分かれる造形をしており、自分としてはあまり好感を持てなかったため、主人公の葛藤や考えに心を動かされることが少なく、そこが評価にも直結してしまったのかもしれません。
薄味ではあるものの、主人公のモノローグが一昔前のノリで痛々しいかつ失礼だったり、過剰に周りから褒められたり{netabare}（エリスの母親の態度が急に変化し婚約を進めるあたりなど） {/netabare}と、所謂「なろう」的要素が所々鼻についた…というのもあります。
そういうキャラクターばかりの作風ならそういうものなのだなと納得できるのですが、ロキシーやルイジェルドといった人格者も存在するからこそより主人公の未熟さ、幼稚さが目立っていたように思います。

「なろう」的な要素で特にマイナスポイントだったのは{netabare} 「ヒトガミ」なる上位存在の出現。主人公と一対一で話し合う場面は作品の雰囲気を大きく壊しており非常に残念でした。折角勉強や修行を重ねてなんとか周りに追いついていたのに、唐突に神視点から正解の行動を教えられるというのはご都合主義を感じますし作品の進め方としてもスマートではないでしょう。今後話に関わる存在ではあるのでしょうが、もう少しやりようがあったのではと思わざるを得ません。 {/netabare}

ただ{netabare} 主人公が外に出るきっかけを得ること（2話）や異世界との価値観の差を初めて思い知ること（5話）は必要不可欠な描写であることは確かですし、9話以降デットエンドとして旅を始めて{/netabare}からは展開の遅さも解消されつつあるので、今後に期待と言ったところです。
展開が遅いというのは裏を返せば丁寧ということでもありますからね。話が大きく動かずとも、何気ない生活の描写や演出で十分視聴を継続するラインを超える面白さはあったということも事実です。

というわけで、2クール目にこの評価がひっくり返ることはあるのか座して待ちたいと思います。

(20210504編集済)