USB_DAC さんの感想・評価
3.9
物語 : 3.5
作画 : 5.0
声優 : 3.5
音楽 : 4.5
キャラ : 3.0
状態:観終わった
奇の衒いも程々に
★物語
・原作 : 住野 よる
・監督 : 牛嶋 新一郎
・脚本 : 牛嶋 新一郎
小説累計発行部数300万部、実写版興行収入35億、アニメ版5億円
を誇る住野よる原作の大ベストセラー作品。
インパクト大の表題も中身は至って普通の青春物。所謂難病を扱うある
意味流行りのストーリーも、意外性のある展開によってオリジナリティ
高い作品に仕上げられています。ただその所為もあってか、世代や趣味
趣向によっては好意的に受け止められず、批判的な意見も目立つ。青春
物の中ではかなり尖った部類の作品だと思います。それでもこんな興行
成績を残すってすごい事ですね。
★作画
・作画監督 : 岡 勇一
・美術監督 : 小川 友佳子
・色彩設計 : 堀川 佳典
作画は非常にスッキリしていて好みの作品。極力自然なデザインを心掛
けたという岡さんの拘りを感じる作り込みは納得の出来で、色彩も自然。
★声優
・志賀 春樹 : 高杉 真宙
・山内 桜良 : Lynn
・滝本 恭子 : 藤井 ゆきよ
Lynnさんを始め、声優陣は流石の演技。
実をいうと『僕だけがいない街』でも感じたのですが、やはり俳優起用
のデメリット(感情表現が下手)がこの作品でも表れていました。これ
でOKを出した真意が全く理解出来ないレベルで、作品を壊しかねない
非常に稚拙で危険な演技に感じました。(ファンの方々ごめんなさい)
ただ和久井映見さんは短い台詞ではありましたが、良かったと思います。
★音楽
・OP :「ファンファーレ」/ sumika
・ED :「春夏秋冬」/ sumika
・音楽 : 世武 裕子
オープニングの明るく軽快なサウンドが格好いい。ただ序盤の主人公の
暗さと重さがネック。曲の良さ、テンポに合っていない気が・・・。
★キャラ
・キャラクターデザイン : 岡 勇一
・原作イラスト : loundraw
とにかく主役達の極端なキャラ設定が不自然に感じて観ていて疲れます。
若さ故のと言えばそれはそれで納得出来るのですが、もう少し穏やかで
も良かった様な、そんな気が正直しました。
[感想]
若くして余命を宣告され、残り僅かな人生に怯えつつも、人前では普段
通りを装い明るく振る舞う。そして春に憩いを与える桜の様に、望みを
叶え、儚くも美しく散ってゆく。そう願うヒロインに突如襲い掛かった、
難病とは一切関係の無い悪夢の様な非情なる結末。誰一人として望まな
かったこの悲劇をどう捉える。
そして恋愛とは少し違う男女の尊い関係性。周囲に批難されつつも互い
を見つめ、思いを尊重し合っていく若い二人。
ぼくの人生とは一体何のか、彼女の儚い人生は一体何だったのだろうか。
かの『星の王子さま』に残された幾つかの名言をヒロインの言葉に重ね
ながら、人間の尊厳とは、命の尊さとは何か、今生きているこの瞬間の
奇跡を美しい作画で伝える感動の名作。
〈だがしかし、我物申す!〉
先ずタイトル。膵臓を病んでいるとしながら具体的な病名を作中で一切
明かさず、住野氏自身によってそれは「架空の病気」と発信されたこと。
「私は膵臓が使えなくなって、あとちょっとで死にます」
若くして膵臓を患っているとなると、恐らく遺伝性膵炎もしくは膵臓癌
を想定してる(多くの発症例が生活習慣に起因する為)と思われますが、
仮に前者であれば慢性膵炎と同じ治療法が可能なので、注意深く、また
適正に管理していれば、余程のことが無い限り余命を宣告されるような
事態にはまず陥らない。例え臓器を摘出したとしてもそれは同じです。
となると残された病名は末期の膵臓癌ということになりますが、この若
さでの発症例・死亡例は非常に稀とはいえ実例はあるらしいので、設定
自体に問題点があるとは思えません。個人的には具体的な病名を明らか
にした方がよりリアリティ・共感が増すのではないかとは思いましたが、
敢えてそれを明かさず、架空の病気とした理由とは一体。
末病とはいえ、また闘病中にも関わらずデザートバイキングに行ったり、
医師に相談もせず遠出をし(現地で何かあったらどうする)、挙句の果
てに飲酒をする。実際に膵臓を患っている人々にとっては、考えられな
いような描写が続く。そりゃ病状悪化するわな。
そして明らかに「同物同治」を連想させるタイトルにも関わらず、その
病名を一切語らなかった。適当じゃ無いんでしょうが、この作品に於い
てその部分は余り重要では無いから、まあこの程度でいいか的なノリ?
膵臓と表題を打っている以上はもう少し正確な病気への裏打ちがあって
も良かったと思いましたし、実際に病と闘っている方々への配慮は必要
だったんじゃないかなあ、とは正直思いました。
「タイトルでつい見てしまった」という事実。ある先輩レビュアの感想
意見(インパクト重視)がもし命名の真実だとしたら非常に残念です。
次に主人公の性格。底抜けに明るいヒロインとの対称関係という狙いは
理解出来る。ただ、あまりにも他人に対して冷淡過ぎるし第一暗過ぎる。
こんな高校生って実際に居るのかなぁ。(笑)感動を伝えていても設定
が極端だとやっぱり感情移入し難いですし、作品全体のイメージも何と
なくボヤケてしまう様な、そんな印象をちょっと受けました。
最後に。人生経験豊かな女性なら未だしも、若くして人生を悟り切った
ような台詞を騙る桜良。ある意味この説教臭さは、同世代には新鮮味が
あって好意的に受け止められるのかも知れません。ただ手前みたいな中
高年はどうしてもそこに小説臭と不自然さを感じてしまう。このピンポ
イント過ぎる層狙い?が評価を二分した理由の一つのような気もします。
出版当時43歳だったサン=テグジュペリ(翌年没)の語録を、青臭い
高校生がさも自分の言葉の様に語る違和感。『星の王子さま』って童話
チックに見えて内容はかなり難解で、リテラシーが相当必要なんですけ
どね。僕も若い頃何度もこれを読みましたけど、当時はさっぱり意味が
解りませんでした。バラの花と喧嘩ってなんじゃい的な。(笑)
概ね伝えたい事は理解出来たし、二人の生き様も理解出来る部分がある。
画作りも非常に秀逸。決して悪くは無いんだけど、観れば観るほど共感
と同時に違和感を覚える、そんな不思議な作品でした。w
以上、拙い長文をお読み頂き、ありがとう御座いました。