薄雪草 さんの感想・評価
4.0
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
JOURNEY FOR FUTURE & HUMAN.
第一印象は「系統に属さない一風変わった作品」というものでした。
きどりの混じった切り口上。
他人の心を揶揄するような振る舞い。
なんだろう・・・どこかで見たような既視感。
最初はそう感じました。表向きには確かにそうなんです。
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「それは誰でしょう? それは私です!」
徹頭徹尾、一人称単数形。
全編に渡ってイレイナの自意識の強さを如実にしています。
見栄っぱりな世渡り術。
尊大を隠さないリリカルさ。
彼女の才気には思わず若葉マークを貼り付けたくなります。
ですがそんな大人ぶった態度もハタチ前の若気なのでしょう。
彼女の人となりは当事者性への振り幅に窺えます。
ときにシニカルに、ときにコミカルに。
柔軟にして奔放、自在にして気儘。
そんなディテールが目立ちます。
アツク入れ込んだり、時にクールに俯瞰するのはキャラクター設定だから?
いいえ、未知の世界に出向くなら、距離感を図ることの難しさは誰にも同じことでしょう。
彼女の旅は、摩訶不思議なもの。
奇抜な風習、理不尽な相関関係。
奇妙奇天烈なハプニングの連続です。
実は、魔法がイレイナのストレングスになっているのではなく、旅々それ自体がイレイナにとってはマジカルな初見。
もっと言えば・・・ディストピアなのです。
魔法は自我を守るための道具であり自尊心を育てるための方便だとも言えましょう。
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お話は変わりますが、少子高齢化が叫ばれだしてから久しく、今では相対的にも絶対的にも「分子」が小さくなっています。
社会構造は成熟を見せながらも脆弱性を孕み、労働人口の減少も相まって維持存続に赤信号がともりだしています。
いかに消費させるか、どうコマーシャルを植えつけるか。
その負の影響は、家庭内や国内外の社会規律にとどまらず、地球規模で全ての生態系にも及ぶさま。
若者が生きる選択肢は、見た目には増えたていを見せていますが、閉塞感に閉じ込められたままで握りつぶされ続けています。
そんな時代に生まれ落ちた彼らが、何を頼りにして、何をめざしていくのか。
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イレイナに付された魔法は、そんな世界を作ってしまった大人たちへのアンチテーゼのように感じます。
最終話で見せた彼女の多様性は、人生の可能性を示しているのではなくて、どのようにも生きにくいそのさまを表しているように捉えました。
それでも、イレイナの時々の選択と行動は彼女の人生を彩るのでしょうし、やがては未来の魔女っ子たちに資するものとなるのでしょう。
ニケの冒険譚、イレイナの日記がさらにブラッシュアップされ、幾久しくリニューアルされていく世界を残すのは、私たち大人の責任とその連帯にかかっているように感じています。
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最初は鼻についていたイレイナですが、いつしか好ましく思えていました。
何故って、彼女は、ハタチのころの私の実相でもあるからです。
可能性への羨望だったり、現実への諦めだったり、ちょっぴり鬱屈した思いを吹き飛ばすような行動を、試行錯誤していた私が確かにあの頃には居たと分かるからです。
イレイナのエピソードトークは、年を重ね、音を上げつつある私の心と体に、もう一度くさびを打ちこんできたのです。
もっとリリカルになって。
クレイジーにもなって。
センシティヴにもアクティヴにもなって・・・。
ずっと昔のことだと思い込んで、すっかり忘れかけていた感覚。
ずいぶんと勿体ないことですね。
イレイナはしかも、異なる世界線での増し増しな多様性・選択性を感じさせる生き様を、最終話で自らに示し、私にもぶつけてきたのです。
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人生は魔法に満ちた世界に触れることで彩りを得ます。
北には北の、南には南の
西に、東に。四季の折々に。土地の文化に。人々の暮らしに。
多くの人との交流があれば、そのぶんだけ感化され深化されるでしょう。
その変化を受け止めることで、新しい視点や気づきを獲得できるのでしょう。
イレイナの旅々は、ニケを辿りフランを巡る旅でもあります。
その意味では魔女としての成長譚でもありますが、その到着点はどこなのでしょう。
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デイトリップもロングトラベルも楽しそう。
人間の目指すべき未来へのジャーニーに、温故知新の思いをわたしはイレイナの旅々に重ね、巡らせています。