かがみ さんの感想・評価
4.7
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
現実を多重化する想像力
天文学や地質学といった地球科学を題材とする本作が全面に打ち出すのは現実を多重化する想像力である。例えば、地図を片手に「飛び地」を探し回る舞は「地図を見ながら歩くと、公園や近所の道がいつもと違って見える」と言い、実際に舞の描いた地図で校内探索するみら達は見慣れた校内の風景を「舞の視点」で再発見する事になる。
また3年生引退後、近所の子供達を相手に開かれた天体観望会のエピソードも印象的。天体観測にあまり興味がなく、観望会にもしぶしぶ参加した女の子が率直に述べる通り、普通に見る限りで天体や星雲というのは「ただの光っている点」「ただのモヤモヤ」以上の何者でもない。ところが天文学の知識を通してみると、こうした「ただの光っている点」「ただのモヤモヤ」という「対象」が「いま遥か太古の宇宙を見ている」という「体験」にリフレーミングされる事になる。
こうした本作の想像力は、社会学の議論の枠組みで言えば「拡張現実」と呼ばれる想像力に他ならない。本作は地球科学という一見敷居の高いフレームを上手く活用する事で、日常系の枠組みの中に拡張現実の回路を導入した成功例と言える。
また本作の大きな特徴に「夢」の強調がある。みらとあおの「未知の小惑星の発見」、真理の「宇宙飛行士」、舞の「自分だけの地図」。こうした「夢」は一見すると、どれも荒唐無稽だったりファンシーだったりするが、みら達の「夢」は地学部の活動や受験勉強といった「現実」と常に相互補完的にリンクしていく「拡張現実」として作用しているのである。
そういった意味で、合宿エピソードでメインキャラ中唯一、夢を見つけられず美景が何気に呟いた「夢を遠慮しない」という言葉は極めて重い。あるいはこれが本作最大のメッセージではないかとも思えてくる。
何気ない「日常」の中に色とりどりの「非日常」が見えてくる。ありきたりな日々の「現実」の中で遥か彼方の「夢」をみる。こうした現代的な幸福感受性の在り方を描き出す本作は日常系というジャンルが持つ可能性を大きく更新しているといえる。