mmma さんの感想・評価
4.8
物語 : 5.0
作画 : 4.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:----
島尾が選んだ「六花ちゃんを幸せに」する方法
葉月くんが好きになった花屋の店長(六花ちゃん)は未亡人。亡くなった旦那(島尾くん)は幽霊になっていて、事あるごとに葉月くんの恋路を邪魔してくる。半ば仕方なく、島尾くんが無念を晴らして成仏できるよう身体を貸したら、外側は葉月くんなのに中身は島尾くんという人物ができあがってしまった。
六花ちゃんは島尾くんのことが忘れられずにいるけれど、その一方で、想いを寄せてくれる葉月くんにも惹かれてしまった。六花ちゃんの気持ちが葉月くんに傾いていくのを、島尾くんは一番近いところで思い知らされて(何しろ今、葉月くんの中身は島尾くんだから)…という物語。
島尾くんは自分の手で六花ちゃんを幸せにすることはできなかった。
六花ちゃんはひとり残されて、絶望にも似た悲しみを味わった。
けれど、葉月くんのおかげで最後にもう一度会えて、一緒におむすびを食べて、これまでお互いにどんなことを思っていたか話をして、それぞれの気持ちを整理することができた。
だから島尾くんは何とか踏みとどまって、「六花ちゃんを幸せに」する(=六花ちゃんを葉月くんに託す)ことができたし、六花ちゃんは自分自身の心変わりを受け入れて、葉月くんと生きてゆくことを選ぶことができたのだろう。
ミホさんに見せてもらった写真のような、六花ちゃんのあの笑顔を葉月くんは見ることができたのか、それはこの物語の中では明かされなかったけれど、きっと六花ちゃんは、葉月くんと一緒に、幸せな一生を送ることができたのではなかろうか。だからこそ、どこへも行かずに六花ちゃんを見守りつづけた島尾くんは、六花ちゃんが亡くなった後も現世にとどまって、葉月くんの最期を(おそらく、感謝の意を込めて)見届けてから旅立ったのだろう。六花ちゃんによく似た孫に向けて「おじいちゃんと呼んでごらん」などと、ちょっと自虐的で意地の悪い言葉を残して。
原作はあっさりとした描写で、コマとコマの間を味わうタイプの作品だった。一見、ちょっと作画レベルが物足りない気もするけれど、むしろこれは、原作の雰囲気により近づけようという意図だったと受け取れる。
このアニメでは、その間に強い情感が込められ、声優陣の熱演、控えめながら印象的な音楽も相まって、密度の濃い作品に仕上がった。
悲しく切ない物語。だけど非常に良い作品だと思う。