Fanatic さんの感想・評価
3.9
物語 : 3.5
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
「紗名と蔵六」ではなく「アリスと蔵六」であった理由
制作J.C.STAFF×桜美かつし監督×高山文彦シリーズ構成は「ガンパレードマーチ」「よみがえる空」「青い花」等と同じ布陣。
キャラデザは「プラネットウィズ」や「まじもじるるも」等の岩倉和憲さんで、本作でも独特のフランクなデザインが目を引きます。
アニメーションは丁寧に動かされている印象で、自動車等のCGが多少浮いている感じはありますが、作画はまずまず良好。
物語の舞台は〝アリスの夢〟と呼ばれる異能者が出現するようになった、現代、もしくは近未来の日本。
冒頭、夜の闇の中、研究所のような施設から異能の少女・紗名が脱走するシーンから始まります。
そして、紗名を連れ戻そうとする研究所関係者と和服の異能者・ミリアム、更に紗名の脱走を手助けする謎の女性異能者・一条雫が登場。
異能バトル勃発です。
何の予備知識もなかったため、冒頭の展開が似ていることから最初は「エルフェンリート」のようなバイオレンス物を連想したのですが、全体としては全く趣の異なる作品でした。
※以下、ネタバレ部分が多すぎてタグを使うと鬱陶しいことになりそうなので外しています。
未見の方はご注意ください。
一条の助言に従い研究所からの追っ手を振り切った紗名は東京に辿り着き、曲がったことは大嫌いという初老の頑固親父・蔵六と出会い、一緒に暮らし始めることになります。
前半は、この蔵六や、冒頭で登場した女性異能者・一条雫、その雫が所属する内閣情報調査室のメンバーと共に、研究所からの追っ手である双子のアリスの夢〝あさひ〝と〝よなが〟や、ミリアム達とのバトルが繰り広げられます。
研究所が閉鎖されることになる中盤までは、よくある異能バトル物かな?という認識で視聴していました。
しかし、研究所閉鎖後の後半に入ると、紗名の成長を中心に日常系アニメのようなほっこりパートに。
ずっと研究所の中だけで生活していた紗名にとって、外の世界は何もかもが新鮮で驚きの連続。
敬語が使えなかったり、極端に世間知らずだったりして(別作品ですが「イカ娘」にちょっと似てると思いました)、常識から外れた言動で周囲を困惑させたり、不用意に能力を使って楽をしようとします。
そんな紗名に対して蔵六は、時には厳しく、時には教え悟すように、外の生活に馴染めるように紗名を気遣います。
蔵六の孫の早苗も、のんびりとした性格ながら、きちんと紗名の目線に立って悩みを聞いたり励ましたりします。
終盤、新たに異能が開眼した羽鳥絡みのエピソードはシリアスな展開も多いですが、基本的には紗名の日常や心情を中心に、紗名が成長する様子をハートフルなタッチで描いていきます。
個人的には、ケレン味溢れる前半とは別の見応えがある、後半のほっこりパートはかなり気に入りました(前半が嫌いというわけではありませんが……)
終盤で、泣き出した羽鳥に対してなんとか自分なりに言葉を探して声を掛けようとする紗名の姿には、『あのトンチンカンな女の子がここまで成長したのか……』と感慨深い思いにさせられました。
視聴後にあらためて振り返って疑問に感じたのは、なぜタイトルが「紗名と蔵六」ではなく「アリスと蔵六」だったのか、という点。
外の世界のあらゆる事象に興味を持つ、好奇心の塊のような世界がワンダーランドであり、能力者である〝アリスの夢〟は、ワンダーランドが外界を知る為の触角のような存在とされています。
このことから、好奇心の塊であるワンダーランドそのもの、若しくはその意思のような物を〝アリス〟と称していると考えられます。
好奇心の塊って、言い方を変えれば小さな子供そのものです。
つまり〝アリス〟とは、子供のメタファーでもあり、紗名を始めとする〝アリスの夢〟は、善悪を知らない子供の好奇心を具現化した存在ではないでしょうか。
頑固親父・蔵六のような大人は最近ではあまり見なくなりました。
タイトルがアリスと蔵六だったのは、小さな子供が人としての基本的な善悪を学ぶ上で、頑固親父が果たしていた大切な役割を伝える意図もあったんじゃないかと思いました。
その意味で、個人的には〝紗名と蔵六〟の日常の交流にもっと軸足を置いてくれた方が、この作品のメインテーマは伝わりやすかったんじゃないかなぁ、と感じました。
終幕の雰囲気から察するに二期は望み薄の印象ですが、この後に続いているであろう紗名の小学生編も、機会があれば是非観てみたいです。