101匹足利尊氏 さんの感想・評価
4.4
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
物語る力を最大化して挑む怪異と乙女心
様々ないきさつがあり、怪異や、怪異と縁のある少女たちと
トークしたり、問題解決したりする羽目になった
高校生少年・阿良々木暦を主人公とした西尾 維新氏による
ファンタジー小説・<物語>シリーズ第1作目のアニメ化作品。
【物語 4.5点】
構成は各ヒロイン複数話完結エピソードの数本立て。
展開は少年主人公と各ヒロインの会話劇が中心。
活字なら消化可能だが、映像化するには長い会話は短縮しないと……。
という遠慮は最小限。
僅かな言い回しの違いまで許さない、トーク再現方針で収録されたとのことで、
掛け合いが脱線しようが、際どいゾーンを突こうが、
双方、語り尽くすまで終わりませんw
(それでも会話劇は原作から大幅にカットされているのだとか)
むしろ、現実にはあり得ない非実在美少女のボケ時々フェチズムに、
めげずにツッコんで行く内に、露わになる生々しい乙女心が、
当初は結び付きそうになかった美少女と怪異の関係性を浮き彫りにする。
この構図を、とことん話し込むことによって説得力を持たせるスタイル。
ただの脱線と思われたフレーズも、核心部分で回収したりすることで、
キャラの濃厚化にフル活用して行く。
【作画 4.5点】
アニメーション制作・シャフト
リアル調の背景美術の中に、同じ構造物が大量陳列される異様。
劇団イヌカレーが演出する刺激的な空間。
凜々しい表情からギャグ漫画風まで振れ幅の大きいキャラデザ。
リアクションする人物に多彩な“シャフ度”から迫る作画。
など独特なアニメーションは持久戦になりがちな会話劇を
盛り上げるために従属しつつも、トークに負けない存在感を放つ。
さらに異彩を放つのは随所に打ち出される字体。
漢字が元々有している原初の絵画性が増幅する旧字体だけじゃない。
一、二、三……と棒一本付加による改竄防止のため編み出された壱、弐、参の大字。
黑齣(こま)、赤齣……の二文字が一色カラーの画面と共に打ち出され、
幕間にリズムを生み、モザイクや謎の光よりはスタイリッシュな覆いとなる。
DOS時代の漢字変換補助に使用された文字コード。
等々、漢字文化の周辺で捻り出された風習まで総動員。
それら字体による演出は、ある種の言葉遊びにより
乙女の半生に忍び寄る怪異を説明するのにも寄与する。
【キャラ 4.5点】
例えばメインヒロインの戦場ヶ原 ひたぎ。
ライトに消費される萌えキャラなど提供しない。
原作者の執念が創造したツンデレを越えたツンドラ。
萌えを越えた蕩れ(とれ)。毒舌を越えた知的な暴言。
{netabare}口を縫うと脅すヒロイン数あれど、
まさか本当にホッチキスで口止めしてくる女がいるとはw{/netabare}
ゼロ年代屈指の毒舌ヒロインとの掛け合いも、まだ初戦に過ぎない。
ロリだの、{netabare}獣人系だの、緊縛だの、猫娘{/netabare}だの、テンプレもなぞりつつも、
各々、枠を突き抜ける部分を持ち、綺麗事だけじゃ済まない青春の一端を抱えたヒロインズ。
対峙するには命が幾らあっても足りない彼女たちと、
渡り合えるだけの心身と饒舌を合わせ持った主人公・阿良々木暦。
コイツらがいれば、オールナイトラジオも楽々完走できるであろう
強烈な個性が長期シリーズの礎を築く。
【声優 4.5点】
主人公・阿良々木暦役の神谷 浩史さんのリアクション芸が迎え撃つヒロイン陣。
大前提として、長台詞でも{netabare}八九寺 真宵の「かみまみた」等も{/netabare}含めて
止めどなく語り、視聴者を飽きさせぬリズムも保つ。キャラソンも歌う。
これができる女性声優陣など早々揃う物ではない。
そんな高密度な少年少女の掛け合いを総括するのが、
忍野メメ役の櫻井 孝宏さん。
声色から説得力の違う語り口で、青春に潜む超常現象の異様を納得させる。
話術は金を生みますw
【音楽 4.0点】
劇伴担当は神前 暁(こうさき さとる)氏。会話シーンではあまり前面には出張らず、
長話の背後で同じリズムを反復するミニマム・ミュージックに徹する。
ジャンルも如何にもなホラー、ミステリー風から、
カントリー風や、オシャレにスウィングする「素敵滅法」まで、
各種取り揃え、視聴者にトークに酔い痴れる心地良い一時を提供する。
OPも神前氏作曲による各ヒロインズのキャラクターソング。
それぞれ作風、アレンジが異なる楽曲を作り分ける器用さで、
アニメーションも曲が変わる度、クレジットのレタリングから一新し、
キャラに全振りしたOPを構築。
だからと言って、{netabare}「ひたぎクラブ」のOPでホッチキス群をカチカチやるのはおよしなさいw{/netabare}
EDは音楽制作集団・supercellの「君の知らない物語」
疾走するピアノとバンド音楽が心地良い逸品。
“あれがデネブ、アルタイル、ベガ”
といきなり夏の大三角を唱えて始まるTVsize版だが、
これも終盤には伏線回収がなされ、このEDで良かったと納得できます。
因みに本作がゲストボーカルを務めたnagiさん(後に、やなぎなぎ名義でソロデビュー)
のアニソンシンガーとしてのキャリアの始まりでもある。