「夜明け告げるルーのうた(アニメ映画)」

総合得点
68.8
感想・評価
119
棚に入れた
449
ランキング
1987
★★★★☆ 3.7 (119)
物語
3.6
作画
3.9
声優
3.6
音楽
3.8
キャラ
3.6

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ネタバレ

蒼い✨️ さんの感想・評価

★★★★☆ 3.4
物語 : 3.0 作画 : 4.0 声優 : 3.0 音楽 : 3.5 キャラ : 3.5 状態:観終わった

シナリオが足を引っ張っているような。

【概要】

アニメーション制作:サイエンスSARU
2017年5月19日に公開されたオリジナル劇場アニメ。
監督は、湯浅政明。

【あらすじ】

東京出身の中学三年生の足元カイは両親の離婚で父母の故郷に引っ越して、
水産会社に就職した父親と、船主で傘職人の祖父との三人で暮らしている。
その漁港の町・日無町(ひなしちょう)は、湾口にあるお陰岩に日光が遮られて、
昼間でも薄暗く寂れた土地であり、「人魚は人を食べる」との伝承が伝えられている。

口では語らないものの、カイは家族や今の自分のことなどで鬱屈した思いがあり、
人に心を開かず距離を置き、笑わない陰キャとなっている一方で唯一の楽しみが音楽であり、
自ら作曲した音楽を打ち込んでインターネットの動画投稿サイトに投稿していた。
その動画がクラスメイトの海老名遊歩と国夫に見つかったことからカイは、
ふたりのバンド「セイレーン」に勧誘される。カイはバンドに入ったつもりはなかったが、
「セイレーン」の秘密の練習場である人魚島に同行。そこでカイたちは不思議な歌声を聴く。
その歌声の正体である小さな人魚の少女ルーと出会い、その明るさに触れているうちに、
カイは人に心を開いて明るく笑うように変わっていくのだった。

【感想】

二度見してみました。

このアニメは原作無しの完全オリジナル作品であり、
一応は中学生の少年の心の成長をテーマにしたストーリーっぽいですね。

変わり種な作品が多い湯浅政明監督が、
日常アニメと感動アニメの脚本を数多く手掛けた吉田玲子と話し合って、
設定やシナリオを考えたっぽいですね。(脚本クレジットは連名)

「より多くの人に観てもらえるような絵柄や題材を意識して作ったのが『ルー』でした。
 だけど、僕自身の手応えとは裏腹に、世間の反響は思ったほどではなくて(苦笑)。」

と、次回作の『きみと、波に乗れたら』で湯浅監督が岡安由夏プロデューサーとの対談で、
後に述懐しているとおり、ファミリー向けや女性らのファン層を開拓する狙いがあったのか、
湯浅作品にありがちな非モテ男の情念や生臭さを前面に出した演出を封印して、
カイの見た目はイケメンであったり、ルーのマスコット的な可愛らしさを強調したりで、
従来より清潔感を大幅に増量した感じ。(一部、そうでないシーンも存在しますが)

内容から『崖の上のポニョ』とよく比較されているのですが、
初期案ではルーたちは吸血鬼であり、それが山の妖怪→人魚と設定が二転三転。

「映画館に会いに行きたくなるようなかわいらしいキャラがいいんじゃないですか?」

変更の理由は、吉田玲子の提案で子どもたちらの目を引く愛くるしいキャッチーさを、
取り入れた結果らしいですね。

吸血鬼設定の名残として人魚は陽の光を浴びれない、人魚に噛まれた生き物は人魚になる。
基本的なストーリーを残すために人魚の設定は、吸血鬼のものを引き継いでいますね。

もともとがアニメーターとして頭角を現した経緯のある湯浅監督は、
シナリオ云々よりアニメーションとしての楽しさを見せたい欲求を優先してるように見える、
演出家としては自分が好きなものを何度も再利用する傾向がありますね。

昔、TVアニメ『キテレツ大百科』の「ひんやりヒエヒエ水ねんど」(1988年放映、第19回)
に原画マンとして参加した際、固形状の水を描くことをえらく楽しんだようで、
「もっと描きたい!」「いつか水をメインに据えた作品をしっかりやりたい。」
との宿願を29年越しに叶えたわけで、不思議な力で水を操ったりするのが本当に描きたいメインで、
ルーも波も固形水を描くための脚本なんでしょうかね。

そのアニメーションづくりの情熱はクリエイター同士では共感できる。
だからこそプロからは評価をされるし、受賞する。

吉田玲子だから湯浅監督の要求を叶えつつ無難な形に話にまとめたけれど、
でもやっぱり、一般向けに妥協をある程度しても、
監督の中での優先順位が映像表現>>>ストーリーなので、
と、アニメ映像作家として審査員受けが良くて、

・2017年アヌシー国際アニメーション映画祭長編部門クリスタル賞(最高賞)
・毎日映画コンクール大藤信郎賞
・文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞

と、受賞できても商業的には苦戦したように、
クリエイター以外の視点からの一般受けは難しいんだと思いますね。

まずこのアニメの場合は叫んだり歌ったりしてもキャラの持つ感情のパワーを観ていても、
心に染み渡るには伝達不十分だったりするかも。伝わった人もいたかもしれませんが、
自分はそうではなかったですね。

吉田玲子が脚本を担当した人気作品って、まずキャラを気に入ってもらって、
何気ない日常や横のつながりを丹念に描いて、視聴者の感情移入を誘う、
そのやりかたが多いじゃないですか。原作ありきやTVシリーズの延長線上の劇場版なら、
原作読者向きに作ったり、TV版での積み重ねを前もって知っていることが前提で、
これはこういうキャラでこうすると視聴者が予めわかってくれるから作り手も余裕がある。
その点ではオリジナル劇場版は一発勝負なわけでして、
限られた尺の中でキャラ紹介をはじめとして全部やらないといけない。

ルーの「好き!好き!だ~いすき!」という感情や、人間の嫉妬や怒りや後悔など、
いろんなものが入り混じってるシナリオですが、そこまでの流れがパージされてたり短かったりする。
コミカル寄りの人物作画があっさりしすぎてキャラの感情補完に向いてなかったりで、
キャラがシナリオを動かしているのではなくて、シナリオにキャラが動かされている感。
特に遊歩が、とある出来事でガッツリ落ち込んでいたかと思えば、
次の場面ではカイの不機嫌さを逆撫でするという結果を生み出すために、
翻意したのか何事もなかったかのように上機嫌であるとか脚本の都合で情緒不安定すぎる、
展開の都合優先での感情が迷子になる整合性の無さが気になったでしょうか。
人の心の迷いや弱さを情緒として味わいにくいのは、そういうところです。

ポニョと違って人間の理不尽で身勝手な部分が強調されているシナリオ。

マッチポンプ式に問題が起こり解決していくのは結構ですが、
気分で人魚を持て囃したり簡単に手のひら返しを繰り返すモブたち。
ただ人間に都合がいいだけの心優しい人魚たち。人魚への迫害に同調したくせに、
祟りでピンチになっては助けられて人魚バンザイになる人間たち。

映像はユニークで非常に面白かったものの、テーマを作って物語を消化するには、
どこかで見たような内容であったり展開の強引さが気になりました。
良いところも悪いとこも含めてそれが人間ということなのでしょうけど、
登場人物の多くが、その感情を咀嚼するには魅力不足ということで、
お気に入りレベルまでは行かなかった作品であるというのが正直なところでした。
まあ、ポニョよりは好きですけどね!


これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。

投稿 : 2020/11/29
閲覧 : 320
サンキュー:

34

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