Fanatic さんの感想・評価
2.7
物語 : 3.0
作画 : 4.5
声優 : 1.5
音楽 : 1.0
キャラ : 3.5
状態:観終わった
サラダに好きでもないドレッシングを勝手にかけられた気分
前作「君の名は。」から三年ぶりとなる新海誠監督の劇場アニメ。
空前の大ヒットタイトルの次回作ということで、いろいろ難しい点もあったんじゃないかなあ、とは想像していましたが、観終わった率直な感想としては『無難にまとまってる?』という感じ(偉そうですみません)。
良かった点としては、前作でも挙げましたが、作画。
とくに、東京の街並みを緻密に再現した、実写と見紛うほどの美術面ですね。
ただし、好きか嫌いかと言われると、微妙なところです。
本作を観ながら、まず思ったことは、色彩が暗いということ。
ヒロインの陽菜が消失する中盤まではほとんどが雨のシーン。
さらに、主人公は家出をしてきた少年帆高と、母親を亡くし弟と二人暮らしの少女陽菜という、結構ハードな境遇。
加えて、一向に帆高たちの心情に寄り添おうとしない大人たち。
そこに、綺麗なところも薄汚れたところも緻密に再現したリアルな東京の街並みが重なるので、観ていてどんどん気持ちが沈んでいくような気がしました。
これが、ハードボイルドやサスペンスドラマだというならいいと思うのですが、あくまでも描きたいのは、軽やかなボーイミーツガールアニメですよね?
技術の高さは十分に分かりましたが、表現手法の問題として、本作にこのタッチが合っていたのかな?と、個人的には考える部分がありました。
ここまでやるならもう、いっそ実写映画でいいじゃん!みたいな。
「君の名は。」で苦言を呈したCVに関しては、相変わらず本職声優をほとんど使わず俳優中心のキャスティングでしたが、帆高役の醍醐虎汰朗さんがかなり好演されていたおかげで、だいぶ安心感を持って観ていられました。
須賀圭介訳の小栗旬さんも、よく馴染んでましたね。
ただ、陽菜役の森七菜さんは、いまいちだったかな……。
質問するときなどの語尾の上げ方や抑揚に癖があって、若者らしいと言えばそうなんでしょうが、私はちょっと気になりました。
夏美役の本田翼さんも、キャラのイメージとはあまり合ってなかったような……。
特に女性声優さんの、いわゆる〝アニメ声〟に慣れてくると、どうしても本職以外の声がリアルすぎると言うか、生活感があり過ぎる気がします。
ジャンルにもよりますし、好みの違いもあるとは思いますが、アニメはそもそもキャラの造詣が実物とはかけ離れてますし、個人的には、声も含めてリアルよりメルヘンを求めているんですよね。
一番印象に残ったのは、安井刑事役の平泉成さん。
特徴がありすぎて、あの声を聞く度に平泉さんの顔しか浮かんできませんでした。
「ハウルの動く城」の木村拓也さんにも感じたことですが、折角のアニメ作品でキャラより声の主の顔がチラつくと、没入感が削がれる気はします。
そして今回も、ふんだんに使ってましたね、ボーカル曲。
「君の名は。」でも、四回もRADWIMPSの楽曲が流れて、映画作品としては音楽の主張が強すぎでは?と思いましたが、まさかそれ以上の物が出てくるとは思っていませんでした。
途中から数えていませんでしたが、多分、六回くらいは流れてましたよね?
もう、こういう方向性でいくということなんでしょうか……。
ファンの方には申し訳ないですが、なんか、サラダに好きでもないドレッシングをたっぷりかけられて提供されたような、そんな気分でした。
セリフのあるシーンにボーカル曲を被せるなんて、文字通りノイズでしかないと思うのですが……。
本当に、新海監督はこれがいいと思ってやっておられるのでしょうか?
何らかの大人の事情でもあるのかしら?
せっかく自分のタイミングで感動したいのに、音楽が流れる度にそれを押し付けられているようで、自覚できるくらい冷めていくのが分かりました。
ボーカル曲を畳み掛けられた終盤は、完全に真顔になてましたよ( ゚д゚)
この手法を続けられる限り、私が深海監督の作品で感動することはないと思います。
{netabare}クライマックスでは、自分たちのエゴと、東京の異常気象の回復、どちらを優先するかという、そこそこ重大な選択を迫られます。
ラストは驚くほど当たり前な幕引きでしたが、当たり前のボーイミーツガールを見せるのが目的の作品でしょうし、それで良かったと思います。
ただ、ラストシーン直前、「世界なんて、どうせ元々狂ってる」という須賀のセリフ、或いは「(東京は)元に戻っただけだと思ったりもする」という冨美のセリフから、エゴを優先した主人公たちを擁護するような意図も汲み取れます。
究極の選択を突きつけられた時にエゴを優先するというのは当たり前のことですが、純愛物語の結末としてそれを見せてしまうのはいかがなものか……という思いから、ああいったフォローが入ったのでしょう。
ただ、何となく取って付けた感も漂います。
エゴか超自我か……そういう重いテーマを正面から受け止めないのであれば、東京を水没させずに済むシナリオも考えられたような。
帆高も陽菜も東京も、みんなハッピーの大団円じゃダメだったんでしょうか?
もっとも、そこまで言うと、さすがに重箱の隅を突くような指摘ですけどね(;^_^A{/netabare}
結論として、RADWIMPSに邪魔をされたことも原因の一つですが、エモいシーンはまったくない映画でした。
しかし、映像作品としての完成度は非常に高く、現時点では恐らく最高峰のレベルとも思える作画を堪能するだけでも、観る価値はあるかと。
興行面でも結果を残されていますし、私に合わないというだけで、新海監督のキャリアの中で失点となるような出来ではありません。
音楽と声優で大きく評価点を落としてますが、その点が気にならないようであれば、普通に楽しめるエンターテイメント作品だと思います。