Fanatic さんの感想・評価
4.3
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
「大嫌い」の裏返しは?
あだち充ワールドと言えば「スポーツを絡めたラブコメ青春もの」の代名詞。
単なるスポ根でもなく、ラブコメと言うほどコミカルでもなく、青春ドラマと言うほど熱苦しくもない……独特のテンポで紡がれる清々しく小気味よい空気感は〝あだち充〟という一ジャンルと言っても良いかもしれません。
明確な主人公とヒロインは存在しているけれど、お互いにはっきりとした気持ちを見せないまま、ライバルや準ヒロインなんかも登場してすったもんだしつつも、最終的には互いに気持ちを確認し合ってハッピーエンド……というのがあだち充のお決まりのパターン。
本作も例に漏れずそうなんですが、最後は上手くことが分かっているので、こちらもやきもきしつつも、心の中では安心して見てられます。
メインヒロインの月島青葉を演じるのは、SAOのアスナ役などで有名な戸松遥さん。
もちろん、本作はSAOよりもずっと昔の作品ですが、それでもここに入ると演技力は別格ですね。
あだち充の描くヒロインは、タッチの南ちゃんのイメージが強すぎるせいか、容姿端麗、明朗快活、文武両道、男子からはもちろん女子からも好かれる王道系が多い印象です。
ただ、捻くれた見方をすると、非の打ち所がなさ過ぎてちょっと嫌味なキャラなんですよね。
それでも、男性は表面的な可愛さやツンデレ属性だけで好きになれたりするのでしょうが、女性視点で見ると感情移入し難いヒロインが多かった印象。
でも、本作の青葉は、ずば抜けた才能を持っているにも関わらず、人一倍努力して、しかも公式戦には出られないという悲劇のヒロイン的な立ち位置で、女子から見ても感情移入しやすくなっていたと思います。
幼い頃に一つ上の姉・若葉を事故で亡くし、故人の想い(主人公の光を好きだった)を慮るあまりに、青葉も、光を気にしつつも素直になれないというジレンマを抱えています。
ことある毎に光に対しては辛辣な発言を繰り返す、相当なツンデレ(ツンツン?)ヒロインなのですが、しばしば挿入される故・若葉の回想シーンが、本人も自覚していない青葉の葛藤を間接的に描写していて、切ない気持ちになります。
主人公やヒロインが直接口に出すと野暮になりそうな心情も、脇を固めるキャラ達が勝手に代弁して後押ししてくれる展開は、あだち充の職人技。
ややご都合主義的ですが、本心を見せない主人公とヒロインが必要以上にすれ違ったりすることもないので、無駄にイライラすることもありません。
唯一不満だったのは、朝見水輝の扱いです。
途中から登場した青葉のいとこで、青葉に思いを寄せる、いわゆるライバルキャラなのですが、完全に役割を東に奪われ、扱いがかなり中途半端に。
原作では偶然青葉の日記を覗いてしまい、読者に青葉の本心を垣間見せるイベントもあったのですが、アニメではカットされているので、単に月島家で同居するお邪魔キャラにしかなっていませんでした。
ヒロインの家で同居する異性って、かなり強力な設定ですし、いくら青葉にその気がないとはいえ、少しストレスになるキャラでしたね。
{netabare}
結局、最終話になっても青葉の口から聞けるのは天邪鬼なセリフのみ。
決勝戦が終わったあと、光に抱きしめられると、
青葉「あんたのことは大嫌いだって言ったでしょ!」
光「ああ、知ってるよ。たぶん、世界中で一番……」
青葉「ずっと、ずっと、大っ嫌いだったんだから!」
光「……知ってるよ」
もちろんこの大嫌いは、これまで見てきた視聴者には大好きの裏返しにしか聞こえないでしょう。
ラストシーンでは、電車に乗り遅れそうになり、光の手を掴んでホームへ向かう青葉。
しかし、ホームに着いても手を離さない彼女に対して、
光「いつまで手を繋ぐんだ?」
青葉「嫌だったら離せばいいでしょ、そっちから」
そっぽを向いて答える青葉。
観ているこちらも頬がニヨニヨしっ放しです。
続くエンドクレジットのバックで流れる、若葉の想いが集約されたモノローグには思わず目頭が熱くなりました。
そこは是非、「大嫌い」の裏の意味を考えながら本編でご確認下さい☆
{/netabare}
最近は、差別化を図ってか、設定やキャラ属性をこねくりまわして奇を衒ったラブコメも多く見られますが、たまには安心して見られる王道物もいいですよ♪