Fanatic さんの感想・評価
3.9
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.5
キャラ : 2.5
状態:観終わった
シンプルで観やすいストーリー。人物描写に物足りなさも……
制作は「ペンギン・ハイウェイ」や「BURN THE WITCH」のスタジオコロリド。
コロナ禍の影響でWEB配信されましたが、元々は劇場公開予定作品だったらしく、作画はとても綺麗です。
脚本担当が、「あの花」や「さのならの朝に約束の花をかざろう」の岡田麿里さんと聞いて、センチメンタルでファジーな雰囲気の作品かと思いましたが、とてもシンプルで観やすい物語でした。
主人公の笹木美代は、クラスメイトから「ムゲ(無限大謎人間)」というあだ名で呼ばれる、中学二年生の女の子。
序盤でいきなり、思いを寄せる日之出賢人に背後からヒップアタックを食らわせるなど、良く言えば自由奔放、悪く言えば、奇行の目立つ風変わりな少女です。
いくらなんでもこんな女の子いないだろ~、と、ちょっと引き気味で観始めましたが、実はムゲちゃん、猫に変身できるお面を手に入れて、日頃から日之出に近づいているという設定があり、奇行も猫の時の癖が出たりしてのかな?なんて脳内補完しながら観ていました。
よくよく考えると、それはそれで気持ち悪さはあるのですが……。
一見、自由奔放に見えるムゲですが、複雑な家庭環境で育ったため、常に本心を隠し、弱みを見せないよう明るく振舞っているという事情が徐々に見えてきます。
そして、猫に変身して好きな男の子の傍にいるときだけは素直に甘えられるムゲ。
タイトルの「猫をかぶる」は、人間のときのムゲと、猫に変身するムゲの二つにかかっているのでしょう。
冒頭にも書いた通り、物語は至ってシンプルで、特に頭を使うような場面もありません。
薄っぺらいという意見もあるかもしれませんが、文芸と映像を混同しているような、無駄に難解な作品も少なくない中、個人的には好感が持てました。
ただ、個人的に薄っぺらいと思ったのは、物語というよりキャラクターの人間味に関してです。
前述のヒップアタックもそうですが、普通、こんな行動しないだろう、この場面でこんなリアクションはとらないだろう……みたいな場面が多々あるのです。
{netabare}
特にキツかったのは、ムゲが一念発起して日之出にラブレターを渡すエピソード。
先ず感じたのは、クラスのみんながいる前でそんな物を渡すかな?という違和感。
渡された相手だって恥ずかしいでしょうし、普通はこっそり手渡しますよね?
さらに、その事をクラスの他の男子にからかわれ、こともあろうか、ラブレターを奪われてそのクズ男子に音読されてしまいます。
小学生ならまだしも、中学二年生にもなって、そんなことしますかね?
百歩譲ってしたとしても、そんなことするクズ男子、速攻でクラス中から総スカンですよ。
しかも……しかもです!
直後、そのクズ男子から手紙を奪い返した日之出。
よぉ――し、いったれぇ!という見せ場のはずなのに、なんと彼まで、ムゲに向かって「俺は恥ずかしい。大嫌いだ」と言い捨てて手紙を握りつぶす公開処刑。
確かに本音はそうかもしれませんが、ムゲの気持ちを考えたらたとえ好きじゃなくたってそんな無神経なこと言えませんよ。
しかも……しかもです!
そんな酷い扱いを受けたにも関わらず、日之出に対して全くぶれない好意を持ち続けるムゲの鈍感さ。
さらにEDでは、音読したクズ男子に何事もなかったかのように挨拶する、寛大すぎるムゲ。
ドMかな?
この辺りの、あまりにもリアリティのないやりとりにはさすがにドン引き。
この件があったことで、人間として生きていくことに嫌気がさしたムゲは、完全に猫として生きていく方が幸せかも……と思い始めるのですが、逆に、その展開に持って行くために無理やりキャラクターたちが動かされている気がして、とてもモヤモヤしてしまいました。
{/netabare}
全体的には、決してつまらない作品ではありません。
テンポもよくて観やすいですし、変なケレン味もなく、シンプルに良い物を作ろうという真摯さも伝わってきて、視聴後感も爽やかでした。
もっと登場人物のメンタリティを掘り下げてくれればかなりの秀作になり得ただけに、惜しいなぁと思いました。