薄雪草 さんの感想・評価
4.4
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
今だからこそ必要な 訴求力と感化力。
2020年、まさに世界が変わりました。
きっかけはCOVID-19ですね。
お国柄などお構いなしに軽がると国境を越え、社会、経済、一人ひとりの暮らし向きに至るまで、マクロ・ミクロのあらゆるレベルで、社会構造そのものが変わりつつあります。
このような状況は、さしずめ誰もが、炭治郎らに近しい立場や心情にあるように感じます。
何気ない通りすがりに、あるいはちょっとした気の緩みに、親、兄弟姉妹、親類縁者、友人知人が、わけのわからないうちに生きにくく、また、生きづらくなるかもしれないのですから。
今となっては、炭治郎の「起きて闘え!立って闘え!」と叱咤する声は、私を含めた全ての人たちの心を奮い立たせる必死のエールなんだと素直に感じ取れます。
禰󠄀豆子を人間に戻すことにどんな艱難辛苦が待っていようとも、それは炭治郎にとっても、そして全ての人にとっても、自分らしく、家族とささやかに生きるという幸福追求への避けては通ることのできない道。
本作の大ヒットたる所以は、まさにそうした時代相似性にぴったりシンクロしたからだろうと私は感じています。
さらに申し上げれば、吾峠呼世晴さんのインスピレーションに神懸かった鬼神からの預言(呼びかけ)だとも思えるのです。
私たちは、さまざまな媒体を通じて、医療に関わる方たちの献身的な姿、大切な人の臨終にも立ち会えず涙する姿を事実見聞きしています。
ニュースが示している数字の後ろ側に、いったいどれほどの悲しみに暮れ、悔しさに嗚咽する方たちがいらっしゃるでしょうか。
無限にも感じられる理不尽さに息が詰まり、持っていき場の無い不条理に、誰もが心が折れかけています。
そんな閉塞感と抑圧感のなかでは、なまなかなシナリオや生身のドラマでは、萎んだ心が奮い立たないのです。
魂が浄化されないのです。
そんな折に、本作が封切られ、広く社会的現象を巻き起こし、連日ニュースに流れていて、また、ネットにもさまざまな論評やコメントが溢れ、あっという間に地球規模で拡散され、共有されていくのもすんなり合点がいきます。
世界中からは、作品への羨望の眼差しが注がれ、理屈のつけようのない期待感が沸き起こっています。私たちが愛すべき深夜枠アニメが、一躍ヒノカミ神楽の勢いと賑わいです。
遠慮なくこんな嬉しいことはありません。
煉獄さんへの称賛はもとより、炭治郎、善逸、伊之助らの活躍もまた、期待に違わないものでした。
もちろん禰󠄀豆子だって大活躍です。
これには、もしかせずとも子どもたちが一番溜飲を下げている?のかもしれませんね。
作品の背景には、見え隠れしている旧態の社会文化性だったり、また、継承され創造していくべき未来像が明確に提示されています。
そのメッセージ性の強さと太さと言ったら抜群の訴求力を持っています。
鬼をCOVID-19と見立てれば、炭治郎らのチームワークで下弦の鬼は倒せても、煉獄さん一人では上弦の鬼は倒せませんでした。
このような「あと少しのところで討てそうだったのに」という演出も、現実相をありやかに写し込んでいるようにも感じられ、人類が大同団結しなければこの地球規模の大峠を乗り越えることが相当に難しく感じられます。
そうであればあるほど、煉獄さんの真摯な言葉が胸の奥に沁み込んできます。
「俺は俺の責務を全うする!ここにいる者は誰も死なせない!!」
それは、ただ目の前の命を守るための私たちの意識改革の日々と同じです。
炎柱とは情熱のことと捉えれば、煉獄さんの真っ直ぐな感化力は、きわめて強い力で背中を押してくれますし、勇気と決意とを芽生えさせてくれます。
彼の炎柱としての勇ましさとあたたかさは、どうしたって何度も触れたくなりますし、受け取りたくもなりますね。
実は、大正時代は、第一次世界大戦の「大戦景気」と「戦後恐慌」という大激動期であり、国民生活を乱高下させるものでした。ほんの100年前のことではありますけれど、時代に見える社会の不安定さは現代の世相によく似ています。
でも、それはむしろ平成や昭和の時代性のしがらみにもたつく必要性がないことを煉獄さんが示唆しているように思えます。
当たり前として血肉化している1世紀分の価値観ですけれど、言葉の表層をただ漫然と「真に受ける」のではなく、また、人まかせにして「間を合わせる」のでもなく、深く緻密に「生真面目に受け取る」という姿勢を錬成すること。
そんな感じで、身の回りを、見直し、聴き直し、調べ直すことで、確かに自律する自覚を造り直す余地が生まれそうです。
なんだか自分自身が、炭治郎にも「育手」になった気もちにもなりますね。
それに、ほんのちょっぴりですけれど、煉獄さんの弟子になれたような気分にも。
そんなわけで、まだまだ鬼に立ち向かわなければなりません。
きっちりマスクをして、もうニ度、三度と劇場に足を運び、大きなスクリーンの煉獄さんの優しさと実直さに触れ、挫けない心をアツアツに練り上げたいと思っている私です。
さあ、皆さんもいかがですか?