なばてあ さんの感想・評価
4.7
物語 : 4.5
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
あっさりした余白の見方
世界が終わったあとから始まる「ディストピアもの」として、じつによく練られた作品である。
シャフトと「Fate」というあきらかに食い合わせが悪そうな第一印象は、そうそうに崩される。むしろ良い感じ。「EXTRA系列」という選択が功を奏している。電子虚構世界という設定がシャフト一流のシャープな画作りとうまくかみ合っている。演出やカット割りは小気味よく、作画はがんばってゴリゴリ動かしてくる。じゅうぶんすぎるくらい、リッチ。もうすこし作画は動かさなくてもこっちは構わないのに、ちょっとムリしてる感すらある。でも、まあ、立派。
ストーリーはきのこががっつり絡んだ新作で、これがとても良い。「ディストピアもの」として、高レベルの仕上がり。うまいなあ。視聴者が予期するタイミングの、さらに1,000年あとのお話という設定。すべてがもうくたびれて、すり切れていて、そこに無地のまっしろな主人公が食い込んでいくという展開。主人公のキャラはいわゆる型月お決まりのいつもの「いぎたなく生きたいと抗う系」で、それだけだと正直もう飽き飽きなのだけれど、ただ、新しいディストピア設定のおかげで、物語もうまく転がっていく。
セリフまわしが、かなり切り詰めたミニマルな仕上がりになっていて、たぶん、読解力のない視聴者はまったくついて行けないだろう、これでは、・・・という印象。わたしももちろん初見で全部はわからなかった。3周目でなんとなく全容が見えてきた感じ。でも、全部わからなかった初見時の充実感が、その後増すかと言われるとそうでもない。わからないところはわからないなりに、ちゃんとおもしろい。重要なことは、「すべてが決定的に終わってしまったあとで、なにをするのか」ということだけだから。
とはいえ、このミニマルな脚本が、たぶん、この作品の人気にとって一番のアキレス腱になっているだろう。わたしは説明台詞が延々と続くかったるい作品よりは、こういう冷たい脚本のほうがずっと好きで、余白を多めに取ってくれているところで、うまく自分の眼差しを遊ばせられて満足。視聴覚室とか、やっぱり泣いてしまうし、赤セイバーが宝具を展開するたびに泣いてしまう。赤セイバーが白いバラを捧げるところも号泣だった。・・・なんだ、結局赤セイバーが好きなだけか。
音楽もすばらしい。いちいちかっこよい劇伴は神前暁氏。神前さんは一時期スランプなのかと思っていたけど、本作の仕事はすごくすごく良い。どうして誰も指摘していないのか。シャフトとの組み合わせはもはや定番だけど、「物語シリーズ」とはあきらかにちがうモードで勝負できていて、クリエイターとしての気概に感動するしかない。OPもすごいよかった。ボーカルも、どうかと思ったけど慣れてみると問題ない。そう、OPは作画が鬼気迫る仕上がりでグリグリ動く。ほんとうに良い。
さて、ちょっともったいないと思うのは、美術。とりわけ第7層の背景美術一枚絵としてキレイなのだけれど、そこにキャラクタが入って動いたときに、ぜんぜんハマっていないとしか。第6層まではいろいろ抽象的にデザインぽく処理可能な設定で、シャフトお得意の画作りに沿っていた。でも第7層の設定だと、やっぱりジブリや京アニ的に手間暇かけて草木や花々を動かしていかないと辛い。・・・それに対して、バトル作画はわたしは全肯定。これはufotableにもできないすごいタイム感のある作画だった(・・・と作画厨の意地を見せてみたり)。
総じて、ストーリーの方向は型月の、作画の方向はシャフトの、それぞれあたらしい可能性を指し示していると思う。それぞれのファンには芳しい評価をもらえていないようだけれど、わたしは、ここにフロンティアを見る。風通しの良い作品のグランドデザインは、見方によっては、完成度の低さを糾弾される。その意味で、視聴者を選ぶ、お高くとまった作品にちがいない。そういう、モダニズムを地でいく作品はだんだん居場所が少なくなってきた気もする。だから、わたしは、この作品を、強く、推す。
衝撃:★★★★☆
独創:★★★☆
洗練:★★★☆
機微:★★★
余韻:★★☆