栞織 さんの感想・評価
4.8
物語 : 5.0
作画 : 4.5
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
ハードSFものとしても群像劇としても傑作作品
逆シャアで落としてしまったので、持ち上げさせていただきます。イデオンはテレビシリーズから歯抜けですが見てまして、見ていて泣いた回が多かったです。この劇場版は前半は総集編ですので、テレビのダラム・ズバやモエラの印象的なエピソードが削られています。特にモエラの死が描かれていないのは残念だったです。しかしとにかく登場人物が多くて、いまだに全キャラが把握できていないのがイデオンです。それらにそれぞれドラマがある群像劇で、このスタイルの作品としても非常に複雑なストーリーなのは、みなさんよくご存じだと思います。
私が思うに、冨野節と言っていいのかわかりませんが、監督の大きなテーマのひとつに、「人間は間違っていると思っていてもやってしまう生き物」というのがあると思います。前にレヴューした逆シャアのシャアの地球寒冷化作戦などがそれで、あの話の中ではそれがうまく表現されていないような気がして、不満だったのです。このイデオンではハルルというキャラがまさにそうで、妹の顔面を撃ち殺してしまう、その事を父親に告白する有名な場面があります。そこでは、ハルルは明らかに自分のした事が間違っていると思っているのです。結局彼らはそのような事の罪の清算で、全員イデの発現により死亡させられてしまいますが、幻想場面で、彼らの霊体での和解が描かれることになります。それはそういった「間違っている事をして後悔している気持ち」、それを後押しするような気持ちで演出されているのでしょう。そういう意味で、このイデオンは暗い作品だと言われますが、罪びとたちの贖罪の気持ちを否定していないという点で、それほど暗い作品ではないと思います。人によっては、あのラストの和解場面が嫌だと思う人もいるのではないかと思われます。要するに、「犯した罪が許されている」ように見えるからです。
ハードSFとしてもこの作品は優れていて、私はあまり知らないのですが、「スタートレック」などの路線の未来図でデザインされていて、本格的だと思います。イデという、人類には解読できないエネルギー体があるというのも、海外のハードSFみたいで、私もこのような謎が袋小路に入っていってしまう作品に、タルコフスキーの「ストーカー」を思い出します。それにしても一番最初に視聴した時は、後半の発動編で次々と登場人物たちが残酷に死んでいくので、本当に見ていてつらかったです。特に女の子の首が飛ぶシーンは、あんまりだなあと思いました。しかし現実の戦争ではそのような事はよくあるのですから、描かれてよかったと思います。彼らが次の惑星に微生物の生命体として落下するというラストは、手塚さんの「火の鳥」のようで、その厳粛な罪裁きはすごいと思いました。彼らがまた人としての生命体になるまでは、気の遠くなるような歳月がかかるのでしょう。それが、彼らが惑星間戦争を互いにしてしまったという事への、罪滅ぼしなのでしょうか。一遍のすぐれた古い叙事詩のようなSF作品でした。