なばてあ さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
繰り延べされる涙
原作のすばらしさは筆舌に尽くしがたい。それは言わずもがな。
けれども、アニメとして素晴らしいのは、原作の素晴らしさにのみ拠っているのではない。そうではなく、アニメ製作スタッフの仕事がいちいち素晴らしいからだ。脚本、絵コンテ、演出、キャラデザ、作画、撮影、美術、音楽、声優・・・どのカテゴリを取り出してみても、クオリティ・コントロールは完璧すぎる。
ギャグとして、ふつうにおもしろくて、クスっと笑える仕上がりになっていて、まったく寒さを感じない。「家族もの」で「ギャグ多め」で「泣きアニメ」というともう『{netabare}CLANNAD{/netabare}』がアタマに思い浮かぶわけだけれど、そしてわたしはあの作品も大好きだけれど。
でもあの作品のギャグは徹頭徹尾サムかった。当時リアルタイムで視聴していてさえ、サムかった。もちろんそれは、あの作品の瑕疵ではない。{netabare}麻枝准{/netabare}の上滑りするギャグはクライマックスに向けたひとつの要素として欠くべからざる歯車となっているのはまちがいない。
それに引き換え本作は、ちゃんとおもしろいし、ふつうに笑える。ここまでギャグがちゃんとおもしろいアニメってめずらしいのではないか。脚本、演出、演技のハーモニーがその奇蹟を支えている。神谷さんはすごすぎる。繊細な笑いを生む間をひとりで作れる。神谷さんを信頼した脚本の仕上がりも素敵だ。
「隠しごと」は、可久士が姫に隠そうとしていたことだけでなく、ストーリーが当初視聴者に隠していることもそうである。姫18歳編ですこしずつ不穏な結末が匂わされ、姫10歳編のストーリーが幸せで楽しければ楽しいほど、その避けられない悲しみや切なさが同時につのっていく構造になっている。
悲しくて幸せで、楽しくて切ない、その引き裂かれのなかで、洗練された演出やカット割り、作画や声の演技を楽しむ。すべての要素が、ぜんぶ素晴らしくて、興ざめするチャンスを捕まえられない。第1話から最終話まで、どんどん引き裂かれ続けていって、自分が涙をこぼす未来しか見えないのに、そこに向かう眼差しを止められない。
ああ、そうだ、これはわたしが『{netabare}少女終末旅行{/netabare}』に感じていた両価感情だなあと、最後まで見終わって、気づいたことだった。共通して苦言を呈したくなることがあるとすれば、あまりにも極められた洗練は、あざとくさえ思えてしまうということくらい。
OPとEDの素晴らしさも、すでに人口に膾炙するので割愛。どちらも、歌だけじゃなくて、作画もすごい。どうして、この作品の作画がもっと評判にならないのか。みんな、バトルシーンの派手なエフェクトでしか作画をはかれないのか。こんなに気持ちの良いタイム感のある日常芝居、もうめったに見られないのに。
ストーリーとビジュアルのいずれもが、昨今のポップカルチャーのなかでも、もっとも良質なノスタルジーを生成する装置として機能する。出会えて良かった。
衝撃:★★★★☆
独創:★★★★
洗練:★★★★★
機微:★★★★
余韻:★★★★