フィリップ さんの感想・評価
4.0
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 3.5
状態:観終わった
愛に関する短いフィルム
アニメーション制作:京都アニメーション、
監督:石立太一、脚本:吉田玲子、
キャラクターデザイン・総作画監督:高瀬亜貴子、
音楽:Evan Call、原作:暁佳奈
「愛してるとは何なのか」というテーマに
真正面から取り組んだシリーズの完結編。
TV版の終了時にその先の展開は予想できていたので、
どのような構成にするのかと思っていたら、
アン・マグノリアにつながる話から始まったのには、
驚かされた。物語の開始直後からいきなり核心を見せる。
この作品が目指しているものが理解できるため、
すんなりと世界に入っていくことができた。
ヴァイオレットは、暗がりを歩く。
足元を照らす小さな明かりを頼りに。
自分が生きている意味を考え、
何をすれば良いのかを探し続ける。
目指す場所に待ち受けているもの。
それは一体どういうものなのか。
人を想う気持ちは、語られた言葉だけが真実とは限らない。
その奥の暗がりに本当の心が隠されていることもある。
電波塔の建設が進み、通信手段のインフラが整備されても
心を伝えることは簡単なことではない。
しかしヴァイオレットは、代筆業によって
人の気持ちの機微を理解できるようになった。
幼い子供の手助けをスムーズに行えるほど成長した。
そこに至るまでに数々の手紙を代筆してきたのだ。
今回は、自分の気持ちを伝える物語。
時には逡巡し、時には求め、時には唇を震わせる。
ヴァイオレットの表情が微細に変化する。
本編の後半でも表情の動きに驚かされたが、
劇場版での細やかな表現は、見ごたえがあった。
ヴァイオレットの心情が真っすぐに届く一方、
ギルベルトの様子には苛立たされる。
ヴァイオレットに対する罪の意識が大きく、
多くの人々を死に追いやった片棒を
愛する人に背負わせ、両腕を失わせた事実が
心に重くのしかかっているのは理解できる。
しかし、その気持ちの形は、ほとんど見えてこない。
何を考えているのかが伝わってこない。
何にこだわっているのかを感じとれない。
暖炉で燃え盛っている炎を映すだけでは、
愛するヴァイオレットを長い間、雨の中に立たせて
追い返す気持ちを理解できない。
それと、ホッジンズがギルベルトかどうか確認に行くときに
ヴァイオレットを入口で待たせるのにも無理がある。
個人的には、ふたりのやりとりと島での行動については、
大きく引っかかってしまった。
{netabare}ただ、未来から過去を見る展開は、良かったと思う。
ヴァイオレットが何を求め、どんな決断をしたのか。{/netabare}
「想いを伝える」ことが、どれだけ大切なことなのか。
終始一貫していたテーマが伝わった。
想いを伝えるためには何が必要なのか。
それは映画の最初に伝えられている。
Sincerely
英文の手紙における結びの単語。
「心から。真心をこめて」
これは、京都アニメーションが
シリーズに関わった仲間、そして観客に向けた
祈りのような言葉なのだろう。
(2020年10月10日初投稿)