QdXYR85362 さんの感想・評価
4.9
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
何年経っても色褪せないるろうに剣心最高傑作
るろうに剣心がジャンプで読み切りスタートした時、私は小学生でした。
明治の、その時代を知らない者にとってはあまりに魅力的な空気感、変革の世の中で時代に取り残されながらも孤高に存在する剣士の姿、重たい何かを思わせる謎の過去、キラキラした気持ちでカラーの中表紙を切り抜いて大切に保管した思い出が今でも鮮明に蘇ります。
その後、連載がスタートし、アニメ化も始まり、一大ムーブメントとなっていくわけですが、そんなブームとは裏腹に、私の心は乗り切れず逆に少し冷めていました。
剣心が背負っているものは、あまりに重い。その重さに対して、作中での心理描写や演出があまりに軽いシーンが散見されたからです。コミックでは作者である和月氏の意図がよく説明されており、原作ではまだそれはそれで楽しめるレベルだったのですが、アニメではその方向性が更に助長されていたように思います。
そんな潜在的な「これじゃないんだよなぁ」感を良い意味でぶち抜いてくれたのがOVA版の追憶編でした。この作品に対する評価は多くの方が絶賛をもって書かれているのでここでは述べません。
そして、そのOVA版追憶編の流れを組み、長年、ずっと心のしこりにあった、「人を殺め続けてきた人が抱える葛藤の重さはこんなものではないはずではないか?」という疑問に答えてくれたのがこの星霜編です。
暗い、と形容する方が多いですが、ただひたすらに美しい、と自分は感じました。
歳を重ねて、前よりは少しだけ違う立場の人の気持ちも理解できるようになってきた副産物として、逆に物語への共感性が揺らいで若い頃は感動したものでも今見るとチープに見えていったりする悲しい現象が発生しがちなのでが、この作品は今見ても約20年前、大学生になった自分が観て流した涙と同じものが流れます。
自分の罪と信念にどこまでも向き合って生きていく。それが人生じゃないかと。そしてそんな人生の締め括らせ方をあまりにも美しく、完璧な形で描いています。
剣心ではなく、共に人生を歩むことを決めた薫の目を通したストーリーテリングとすることで、あの短い尺に回想も含めて無理なく全てを詰め込めているのも見事です。
当時、唯一理解できなかったのが薫が剣心と同じ病を共有するというくだりなのですが、結婚して、自分よりも大切な人ができて、歳を重ねた今となってようやく共感めいたものを感じます。約10年ぶりに視聴して、類稀なる名作の中にあった一つのしこりが取れ、自分の中でより完璧な作品となった感覚がありました。
改めて、この作品を作ってくださった古橋監督をはじめとしたスタッフの方々、そして、これを世に出すことを良しとしてくれた原作者の和月氏に敬意と感謝を申し上げます。