退会済のユーザー さんの感想・評価
4.8
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 5.0
状態:観終わった
🎖La Vita Nuova
★★★★★
タイトル詐欺にも程がある。
京アニにしか成し得ないという意味で最高傑作。
コメディとシリアスの振り幅が素晴らしい。
刺さる人にはブッ刺さる作品でもありキャラ可愛いギャグ面白いだけでも成立する京アニお得意の強烈なキャラパワーと見応えのある良作画が存分に楽しめるコメディ+シリアス作品の傑作。
この作品もタイトルと中身がマッチしてないですが、これも意外性の演出という意味で多用される手法でしょうか。「こういう話かと思ったら実はこうだった!」みたいな。原作は違うのかもしれないですが本作では「中二病」も「恋」もテーマというよりモチーフでしかないのです。
中二趣味を自覚しながらも恋愛に憧れを抱いており、降って湧いたチャンスに二者択一を迫られ折り合いのつけ方に葛藤する主人公、とかいう話を期待していると「いやいや中二病ってこんな風になるもんじゃないだろ」という感想になりそうな内容です。「恋がしたい!」ともありますがヒロイン六花は最初から最後まで恋に恋い焦がれる人物としては表現されてません。そういう捉え方で観ると本作は完全な失敗作です。私も途中で「詰込み過ぎなのか?これでは誤解されてしまうのでは?」と困惑はしました。この作品を最後まで楽しめたのはやはりこの強烈なフックがあってこそですが、実際のテーマは発達課題のクリアというのが私の解釈です。
認めたくない現実に自分よりも悲しみを素直に表現出来た家族を目の前にして自分の感情を押し殺すしかなかった六花。悲しむべき時にきちんと悲しめなかった彼女の時間はここで完全に止まってしまいます。生活環境の変化により彼女の精神がブッ壊れる寸前で目にしたのが中二病真っ盛りの勇太の姿。痛々しさ全開ながらも奔放に自己表現する彼の姿に六花は感銘を受けます。彼女にとっては青天の霹靂だったでしょう。勇太の痛々しくも輝かしいその勇姿は六花にとってはまさに生き抜くための手段、希望の光そのものでした。かくして邪王真眼を手に入れた六花は不可視境界線を探す旅に生きることになります。
不可視境界線を「探している」と六花は言うものの、それは認めたくない現実そのものです。そこに固執しているのは六花にはそれしか無かったから。現実を正しく認識したくないからこそ「もしかしたら…」という幻想にすがるしかなかった。六花の創り出した概念「不可視境界線」はATフィールド同様に自己の内側と外側の境界線。見たくもない触れたくもない現実を「あるはずがないモノ」に設定する。達成不可能な目標を生きる希望とすることでなんとか自我の崩壊をギリギリ免れている状態。
勿論彼女の祖父が言う様に、六花の「出力」だけを見るなら「くだらない」でしょうし「間違っている」というのは簡単です。ですが六花にとっては最低限、生存していくための知恵でした。孫に対してなぜそのような行動をするのかとの考えが及ばない祖父、娘の感情を差し置いて存分に悲しんでしまった挙げ句逃避する母親。子供ゆえに力の及ばない姉。周囲に完成した大人がいない不幸により様々なモノを取りこぼしていった六花はまだすがるモノを見つけられただけ運が良かったとも言えます。
勇太はやっぱり中二病モード、ダークフレイムマスターのイケボが最高です。自ら封印したはずのキャラを六花の為に使う漢気がたまりません。鳳凰院凶真やバーニングファイティングファイターなど中二病患者はイイ奴が多いですね。
凸守の存在なくして六花の中二病の存続はありえなかったでしょう。年下ながら周囲の信頼を勝ち取りつつも中二病キャラを成立させている人物からの承認を受けている事実は何よりも心強かったはずです。六花の苦渋の決断は凸守にとっては身勝手な裏切りと映ります。彼女の慟哭も見せ場でしたね。本作では1番の存在感だったと思います。
森夏もストーリー上序盤のフックとなり、その後もハイスペ女子高生を演じるに相応しい相当の努力により身につけたであろうコミュ力で内部では少しお姉さん役を請け負いつつ、外部との橋渡し役としても機能してました。
くみん先輩は観察役ですかね。流れに身を任せつつも我が道を行く。それでいて少し俯瞰的な視点から参加している。
家族においても一切を認めない祖父、後悔から自ら踏み込めない母親、そばにいても見守る事しか出来ない姉、とそれぞれ内部外部共に複数のレイヤー毎の距離感の違いが効いているキャラの配置が本当に素晴らしいです。
人気作らしく2期も劇場版もあるんですね。でもこれ以上何するんでしょうか。キレイに完結してますよね。いやストーリーはキレイに完結してるのですが、あまりにキャラの力が強すぎるのでそれぞれのエピソードが足りないとすら思ってしまうのです。キャラ萌えしない私ですらそう思うのですから○○ちゃん可愛い(はあと、な方からすればストーリーに欠陥があるという評価にすらなりえるでしょう。いつもながらこの強烈なキャラパワーには恐れ入る。
ついに不可視境界線に辿り着いた六花。
過去との決別を果たし彼女の時間は動き出す。
彼女はやっと選ぶ事が出来た。
自らの意思で、自らの生き方を。
自転車で坂道を下りる勇太と六花。
2人乗りの重さで加速する勢いは
まわり道の遅れを取り戻すかの様で。
D20200914
F20201017