遊微々 さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
地球をアイスピックでつついたとしたら、ちょうど良い感じにカチ割れるんじゃないかというぐらいに冷え切った12月18日、平凡なる彼の非日常は再び塗り替えられた。
100本目記念レビューはこれって決めてました。
本作は「涼宮ハルヒシリーズ」の中でも一際異彩を放つ『涼宮ハルヒの消失』を2010年に劇場アニメーションとして映像化。
私自身がハルヒにハマったのは当時としては衝撃的だった作画、カメラワーク、演出、構成、EDのダンスといったアニメーションの部分の魅力に惹かれたためで、セカイ系SFというジャンルに分類される本編自体の内容は正直そこまででした。
しかしこの「消失」だけは違いました。私は原作小説は読んでいませんでしたが、コミカライズの方には目を通していて、その中でも「消失」は明らかに空気が一変し、それまでのエピソードとは一線を画す内容であったため衝撃を受けたのを覚えています。
「憂鬱」以来の本格的な長編であったこともそうですが、何よりそれまで観測者としてどんな時も平静を保っていた長門が大きく変化を見せたのが何よりの驚きでした。そして今までトラブルを引き起こす原因となっていたのはハルヒでしたが、今作ではその原因が長門であったことも強く印象に残ります。
今作のタイトルにある「消失」とはハルヒの存在が消えた世界ではなく、ハルヒの力が消えた世界のことを指します。キョンにとってそれは今まで自分が求めていた平凡な日常であり、宇宙人も未来人も超能力者も存在しません。
しかし彼にとって、今まで散々恨み言を放っていた非日常こそが既に彼の日常になっており、そんな世界を楽しいと思っていたのも事実でした。そして何より、作り替えられた世界を受け入れることで、今までの世界が、自分の体験してきたことの全てが否定されるような感覚、恐らくそれを受け入れるのが嫌だったのでしょう。だからこそ元の世界を望んだんだと思います。
そしてもう一人のキーパーソンと言える長門です。彼女は自身のそれを「バグ」と称していましたが、キョンが言うようにあれは「感情」の芽生えだと思います。冒頭で古泉が述べていたハルヒを始めとするSOS団メンバーの変化についての話はまさに伏線で、ハルヒやキョンと関わるうちに彼女の中にも感情という変化が生まれました。表には出しませんでしたが、彼女の中に戸惑いや不安といった様々な感情が巡っていたのかもしれません。最後にキョンに選択を委ねたのは、彼にどうしたらいいのか助けを求める、そんな彼女の弱みだったのではないかと自分は考えています。
しかし今回レビューを書くために再視聴しましたが、改めてそのクオリティに感嘆させられましたね。
公開当時はまだ自分も目が全く肥えていないため特に気にしてなかったのですが、キャラクターの僅かな息遣いにいたるまで一挙手一投足を躍動感溢れる且つ緻密に描いた繊細で美麗な作画、京都アニメーションの持つ技術力の高さに改めて感動させられました。
エヴァーガーデンも良かったけど、それでも京アニ史上最高傑作はやっぱりこれだと思っています。