ぽに さんの感想・評価
4.3
物語 : 4.5
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
「成功」というフィクション、「失敗」という現実を私達に突きつける
さくら荘に集う人物達が織りなす、青春群像劇です。
正直、「ペットな彼女」というタイトルで引いちゃう人がいるかもしれません。かくいう私もそうでした。
しかし、タイトルが変だからという理由でこの作品を見ないのはもったいないです。
テーマはずばり「天才と凡人、才能とは何か」でしょう。この物語には、三人の天才と三人の凡人が登場します。
一人目の天才は、ヒロインの椎名ましろ。絵画の世界ですでに名声を得ているが、何故か日本にやって来てマンガを書き始める。常識と生活力が壊滅的。
二人目は上井草美咲先輩。一人でアニメを作ってしまう猛者で、こちらもすでに世間からの評判が高い。だが、行動が破天荒すぎて主に主人公と三鷹を振り回す。
三人目の天才は赤坂龍之介。凄腕のプログラマーで、企業の依頼を受けている。自作AIの「メイドちゃん」に雑務を任せており、序盤は顔すら登場しない超絶引きこもり。
この三人は、現実世界ではほとんどありえない存在と言い切っても過言ではありません。仮に、こんな人物が世の中に存在したとしても、二人か三人といったところでしょうか。それくらい我々にとって彼らの成功は「フィクション」です。
次に、凡人です。
一人目の凡人は、主人公である神田空太です。彼はましろがマンガに対して一生懸命になる姿に触発されて、ゲーム制作のコンテストを目指します。しかし、彼は凡人です。なかなか評価は得られません。
二人目の凡人は、青山七海です。彼女は声優を目指して大阪から単身で上京してきました。彼女の夢に対する情熱は本物ですが、空太同様なかなか結果に結びつきません。
三人目は、三鷹仁です。彼は脚本家を目指しています。秀才かも知れませんが、世の中からの評価はいまいちです。上井草先輩の才能にあてられて、屈折した感情を持っています。
仁さんを除く二人は、とにかく失敗という現実を突きつけられます。しかも、天才達が努力をして更なる成功を掴むのだから、なおさら天才と凡人の差は広がるばかり。主人公に至っては、世の中の不条理にも邪魔されてしまう有様で、物語後半は「頼むから成功してくれ!」と何度願ったでしょうか。
私達は、手放しで喜べるような成功というのはあまり体験したことがないのではないでしょうか。そう言う意味で、彼らのキャラクターは私達の気持ちをストレートに代弁する立ち位置におり、とても感情移入がしやすい構造になっています。
そんな感じで凡人三人を応援したくなり、この作品の高評価に繋がっているのだと思います。
しかし、この作品は「失敗ばかりの人生に意味はない」と言っている訳ではありません。失敗ばかり経験した人達はどうすればいいのか。その答えは、凡人キャラクター三人がどういう道を選択したかを見れば自ずと見えてきます。
タイトルに惑わされず、そして途中切りせず、最終回まで見て欲しいですね。上井草先輩が抱いていた思いにぐっとくることは間違いありません。