101匹足利尊氏 さんの感想・評価
4.6
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
大海原へ溢れ出す青春の心の荒波
【物語 4.5点】
青春と童話のさじ加減が絶妙。
青春の一大事が世界の命運と連動する。
SF、ファンタジーの類ではよくある構図だが、
リアルとファンタジーの配合を間違えると、
茶番になりかねない。
そこを本作は青春&海洋ファンタジーとして、
見せたい映像や物語を展開するため、
試行錯誤の末、ほど良い塩梅で設定が組まれる。
結果、時に荒れ狂う青春の心模様が、
海の変化がもたらす気候変動とも密接に絡み合う、
理想的な舞台装置が実現。
思う存分、青春を語り尽くせる環境下で、
シリーズ構成・岡田 麿里氏らが紡ぐ脚本。
誰かを好きなることで、誰かを邪険に思ったりする、
己の醜さを自己嫌悪しても尚、輝かしい少年少女の台詞が、
イキイキ、ドロドロと泳ぎ回る。
私など、開始早々、
{netabare}「俺は見てしまったんだ 誰かが誰かと 特別な出会いをしたその瞬間を」{/netabare}
でいきなりノックダウンを喫する有様w
ただ、本作におけるマリーの一番の大仕事は、
『凪のあすから』のタイトルを発案したことでしょう。
意味は最後に打ち出される最終話タイトルで明らかになります。
天才的な発想でKOされましょう。
【作画 5.0点】
青の色彩をフィーチャーした背景美術が、
海で暮らす人々と地上で暮らす人々が交錯する海辺のムードを演出。
世界観に寄せるためなら、赤い消火栓くらい平気で青にする。
水族館みたいなレタリングが踊る校舎。
陸に乗り上げた船がそのまま営業しているみたいな「サヤマート」
など建物デザインも秀逸。
錆や塗装の剥げ具合など細かい部分にも手を抜かない。
海の伝説を表現したタペストリーもアート性があって〇。
丹念な美術設定の上で展開される海洋ファンタジーの諸現象の美しさ。
魚が泳ぐ海中の街並み、陸から覗く海の中、海の中から見上げる満天の星空。
“ぬくみ雪”、流氷、“巴日”……。
背景の美しさだけで感動させられるアニメは早々ありません。
2クール常時フルパワーというわけでもない人物作画。
だが、ここぞという場面での表情描写は表現力抜群。
例えば17話の……{netabare}紡と“団地妻”がお茶を入れるカットで、
二人が五年同棲して培った生活感溢れる連携プレイに、憂いを噛み締める要。{/netabare}
など表情が時に台詞以上の説得力を持って視聴者のハートに突き刺さる。
私は台詞だけで既にボコボコにされているというのに、
えげつない切れ味のコンテがボディに食い込んで悶絶しますw
【キャラ 4.5点】
光、まなか、ちさき、要の海村陣に陸地の紡。
など主要人物には名前にも相関図上の意味が込められる。
前半と後半でキャラにも大きな変化が訪れる本作。
要所で名前が変わらない物を示す灯台にもなり、
シナリオ展開上のキーワードとなる。
海神の欠片である、うろこ様は唐突に権威失墜させる下ネタも挟むが
{netabare}エロ本で釣られるなよと(笑){/netabare}
掴み所がない中でも、青春の本音を引き出す忠言が的確。
陸VS海のしがらみに囚われた大人たちも、
少年少女に突き動かされれば、熱い潮が渦巻くハートを見せてくれる。
萌えの観点から考えると、JCが主軸で始まり、
JSや新妻も絡み、看護学生および“団地妻”も躍動するが、
何故かJKだけほぼ出番がないマニアックな?構成。
これは恐らく“腐女子”から見ても同様と思われます。
高校生の押し売りに飽きた方は見てみると良いかもしれませんw
【声優 4.5点】
矢島光役・花江 夏樹さん、向井戸 まなか役・花澤 香菜さん、
比良平ちさき役・茅野 愛衣さん、伊佐木要役・逢坂 良太さん、
木原紡役・石川 界人さん。
など、笑っちゃうくらい強力な布陣。
放送時の声優界のポジションで言えば、
ブレイクを果たし人気を固めてきた女性声優陣に、
初主演となった花江さん他、売り出し中の男性声優陣が挑む構図か。
現在も一線級で活躍する当時の若手声優陣が、
青春の波乱を熱演し、才能を遺憾なく発揮。
演技を堪能するだけでも本作を視聴する価値があります。
私が意外と好きなのは担任の先生役の斎藤 寛仁さん。
かすれ声が素朴な味わいで、教え子たちの掟に背く言動も
ゆる~く後押しする魔力があったと思います。
【音楽 4.5点】
劇伴は時に木琴、鉄琴などもアレンジして不思議な海の童話をアシスト。
だが、真骨頂はやはり数多く作曲された心情曲。
特に感情を振り切っていく場面で多用された「すりぬける心」は
琴線に触れるピアノとストリングスで、聴く者の感情をも揺さぶる逸品。
OPはRayさん。前期「lull~そして僕らは~」、後期「ebb and flow」
一級品の青春海洋ファンタジーに出会い、
作詞・川田 まみ氏、作曲・中沢 伴行氏(後の夫妻)
I'veの主力を担ったお二人も興が乗り、透明度アップ♪
EDは、やなぎなぎさん。
前期「アクアテラリウム」、後期「三つ葉の結び目」。他に挿入歌もあり。
前期の歌詞で言及した“デトリタス”は海で人の心を比喩する骨格として回収される。
など歌詞世界も作品に肉薄。