「劇場版『Fate/stay night Heaven’s Feel』 第二章(アニメ映画)」

総合得点
83.6
感想・評価
409
棚に入れた
2250
ランキング
320
★★★★★ 4.2 (409)
物語
4.1
作画
4.5
声優
4.2
音楽
4.2
キャラ
4.2

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ネタバレ

なばてあ さんの感想・評価

★★★★★ 4.8
物語 : 4.5 作画 : 5.0 声優 : 4.5 音楽 : 5.0 キャラ : 5.0 状態:観終わった

否定神学がねめつける剣製

[Ⅰ.presage flower]のレビューの続き。この劇場版が「ファンサの域を出ない」ことの是非はいったん措いて、書く。

シナリオの出来がすばらしい。原作『Heaven's Feel』のテキスト量は半端ない。とにかく、永遠に続くかと思うほどに、長い。それを大胆に彫琢し、場面ごとごっそり落とす。削減したテキスト量はかなりにのぼったはず。三部作をそれぞれ2時間の枠に収めるという大前提があり、次に拮抗する条件は、このテキスト量とバトルシーンの尺だっただろう。すでに視聴済みのヒトなら誰でもわかるとおり、このバランスの取り方がかなりチャレンジング。バトルシーンの尺はギリギリまで長く確保されている。スタッフはどこまでも険しい道を選んだのである。その選択に敬意を表したい。その危ない橋を渡って、なお、月厨であればしっかりフォローできる解像度が奇跡的に担保された。

この作業の見方を変えると、「Fate」自体の構造の古さは隠しようもないけれど、その構造の古さを、さまざまな手練手管で覆い隠すという行為だったとみなせる。振り返ってみると「Fate界隈」でもっとも冗長でくどい原作だった『{netabare}Unlimited Blade Works{/netabare}』も、テレビアニメ化の際にufotableの手によってリファインが施された。いずれの作品も、パッと見の蒼然とした古さは中和することができたと思う。・・・ただ、過去の古さをごまかすことと、現在の切実を投影することは、別だと思う。結果、この辺が「ファンサ」の限界と言わざるをえない。わたしは月厨としてはこの作品を肯定できるけど、アニヲタとしては肯定しかねるのもこのあたりが原因。

とはいえ、きのこの手になる物語のゴツゴツした触感は、リファイン後も健在で、「ファンサ」としては完璧な仕上がりであることに変わりは無い。この触感こそ、他のクリエイタにはマネできない、唯一無二の境地。

[Ⅱ.lost butterfly]の白眉はエログロである。放映当時から評判を呼んだ「セイバーオルタとバーサーカのバトルシーン」はおそらくバトルシーン史上の最高傑作に数えられるだろう。もはやufotableの代名詞となった、重厚濃密なバロック的作画。作画ヲタとしてのわたしにしてみれば、決して好みではない。けれども、その方向性としてはもはや比べるもののないレベルだろう。手描きのエフェクト作画が、緻密なレイアウトと合わさって、ゴージャスきわまりないスペクタクルになっている。カメラワークはわりとノーマルで、それがこのゴージャス感を醸成する隠れたポイントだろう。劇場で見たときは、それはもう圧倒されたことを告白せざるをえない。ただ、負け惜しみのようになるけど、すでに[Ⅰ.presage flower]レビューで述べたとおり、本作の作画の醍醐味は「日常芝居」にこそあるというのが、わたしの見立て。

日常シーンで言うなら、月厨にはおなじみの名場面である「レイン」、CGで降り注ぐ雨粒のなか、士郎と桜がかりそめの邂逅を果たすくだりは、さすがの力の入りよう。「ファンサ」に徹していることの証しでもあるけれど、「セイバーオルタとバーサーカのバトルシーン」と並んで、脳裏に焼き付く仕上がりに。言うてみれば、ただのメロドラマなんだけれど、そのただのメロドラマを高校生が背伸びしてやってる薄っぺらさが原作のおもしろみだったとわたしは思うのだけれど、その薄っぺらい場面が突然ハリウッドばりのゴージャスな情感でもって再現される。文学的な機微に持っていこうとして持っていけなかった原作のもどかしさを、ufotableの超絶作画でもってブーストをかけることで、なんとか手が届いている、・・・かのように見せることに成功している。ここが劇場アニメ化の成功ポイントの最右翼だろう。

でも、月厨のわたしとしていちばん嬉しかったのは、イリヤの描き方。『{netabare}Fate/Zero{/netabare}』からの流れを、士郎がある意味で放棄したあとで、それをしっかり紡ぎとおすのがイリヤの感情だった。イリヤが、その士郎を肯定するくだりが、わたしは一番涙腺に来た。誰かが何かを決断したとき、それをきちんと見届ける存在がいるのは、福音だ。まあ単純に、イリヤが好きだという話かも。「魔法使いが残した宝箱は、きれいそうだから」というセリフと、それを言うイリヤの妖艶な表情は、とても良い出来。こういうバトルシーン以外のこまやかな感情表現がとにかくすばらしい。凜とか桜のようなある種わかりやすい感情ではなくとも、それをしっかり拾い上げて表現につなげるスタッフはきっと良心的なのだと思う。

・・・続きは[Ⅲ.spring song]のレビューにて。

衝撃:★★★☆
独創:★★
洗練:★★★★☆
機微:★★★★
余韻:★★★★

投稿 : 2020/08/31
閲覧 : 257
サンキュー:

3

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