plum さんの感想・評価
4.2
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 3.0
音楽 : 5.0
キャラ : 3.5
状態:観終わった
経験がなくともノスタルジーを感じるのは
この作品で、新海誠を始めて知った。美しい背景と音楽。そこで描かれる純粋な想いに、胸が締め付けられてしまいます。
この作品は、さらっと流し見してしまうと、貴樹(男)はいつまでも過去の恋愛を引きずり、明里(女)は気持ちを切り替え幸せになっていく。そんなものだよね、という作品になってしまう。
しかし、視聴中に少しでも自分に重ねて見てしまった人にとっては、そうではなくない。人は、いい大人になるまでの間に何度か恋愛をする。何かの拍子にふと頭に浮かんでしまう相手がいる。誰にだって、胸が締め付けられるような思い出が、ひとつはあるはずです。
ありますよね。ふとこう思うこと。
「あの子どうしてるかな。幸せでいるといいな。きっと、俺より幸せになってるだろうな(笑)」
貴樹にとってその人は明里であり、その想いは決して未練ではなく、彼女を幸せにすることができなかった自分を咎める想いと、今の彼女の幸せを願う想いなのでしょう。実際には、彼女は不幸せではなく、彼女も思い出とともに彼の幸せを願っているのです。
遠距離恋愛や、好きな子が部活が終わるのを待つ。自分にそんな過去はないのにノスタルジーを感じるのは、作中で描かれる気持ちが、自分の過去の想いと重なってしまうからなのでしょうね。
小説版が文庫で発売されていたので買ってみましたが、これが予想以上に良かった。特に3部構成の最終話「秒速5センチメートル」に多くの頁を割いており、アニメでは少なかった貴樹の心情描写が、小説ではしっかり描かれている。小説を見て再度アニメを見ると、その印象は少し変わったものになった。
そして新海誠と言えば、美しい背景描写。それは小説においても表現されています。これは、新海作品の映像美は、単なる技術力ではないことを表していると思う。目に見える景色を言葉で表現できるからこそ、それに自分の色を加えたあの映像美があるのだろう。
ただ惜しむらくは、小説で描かれた3部「秒速5センチメートル」での貴樹の心情は、本来、アニメの中で描かれて然るべきものだった。アニメで表現しきれなかった、と思ってしまうからだ。