ルー さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
アニメ映画の完成形
こういう言葉はあまり使いたくないが
日本人なら見るべき作品だと思う
戦争については小学生の時に散々習ったと思うし、また広島や長崎での平和学習をきっかけにトラウマになった者も少なからずいるだろう
そして、戦争を題材にしたアニメといえば火垂るの墓やはだしのゲンが有名であるが、それでもまたトラウマを植え付けられ、戦争の悲惨さを学んだ方も多くおられるのではないだろうか
あらかじめ断っておくと、私はそれらの作品や教育について否定するつもりは全くない
しかし、私はそれらによって悪い意味で日本人が戦争に関心がなくなってしまったのではないかと考えている
というのも、この作品をすすめても誰にも見てもらえなかったのだ
その理由は、この作品が戦争を題材にした映画だからである
戦争は悲しくて暗いものである
そして、それを題材にした作品というのは見たくないのが人間の心理だろう
されど、この世界の片隅にという作品は戦争がテーマであるのにも関わらずとても見やすいのである
それは見てもらったら分かるが、導入からしばらくの間は、質の高い日常アニメなのだ
すずさんを取り巻く環境は変わるものの昭和の時代をただ暮らしていく
その暮らしは生活感溢れるもので、誰もが共感できることである
その歴史系日常アニメの世界に、片渕監督とMAPPAの融合によって描かれたぬるぬると動く作画によって、まるでそこにいるかのような感覚を抱くことができる
そして、すずさんの庶民的な声と現実的な行動によって、ますます感情移入することができるのだ
ここまで土台がしっかりとしたアニメは戦争映画以外でもなかなか見当たらないだろう
その世界に戦争が少しずつ段階を踏んで侵食していく
その様子がとてもリアルに感じられて、どこか他人事に感じられた戦争が身近に迫っていくのだ
そこが従来の戦争作品と違うところであろう
これ以上はネタバレし過ぎてしまうので書かないが、絶対に見て損はしないし、見終わって嫌な気持ちになることもない
しかし、戦争について、日々の生活についてより深い気持ちで接することにはなるだろう
この作品を見て、呉や広島に訪れた者は多くいたと思う
私もその一人だ
その訪れた理由、それは昔そこで何があったのか現地に行って肌で確かめてみたかったからだ
つまり、それは戦争を忌避する行動ではなく、積極的に知ろうという行動なのである
火垂るの墓やはだしのゲンのように、暗い気持ちになって、戦争に関するものを忌避するような感覚に至ることはないのだ
無関心であることは時により多くの犠牲を出してしまうものだ
それはルワンダ虐殺で実際にあったことだし、現在でもお隣の国で特定の人種に対して酷い人権侵害が行われてるという事実を日本人の大半は知っているだろうか
直近では、アゼルバイジャンとアルメニアの間で戦争があったが、どれほどの人が関心を持ったであろう
この世界の片隅には戦争の理不尽さ、そしてその理不尽な暴力をどう考えるのかがテーマの一つにある
人はみな暗いものを避けたがるが、時には直視しなければいけない現実もあるのではないだろうか
この作品を見て様々なことを自分の感性で感じてほしい