フィリップ さんの感想・評価
3.9
物語 : 3.5
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 3.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
札幌から生じる風変わりな波
アニメーション制作:サンライズ、
監督:南川達馬、シリーズ構成:米村正二、
キャラクターデザイン:横田拓己、
音楽:岩﨑元是、原作:沙村広明
『無限の住人』の作者・沙村広明が、
ラジオDJの女性を主人公にした現代劇に挑戦。
初めてそのニュースを知ったときは、
疑問符がいくつも頭に浮かんだ。
この人は、一体何をやろうとしているんだと。
そして、作品を手に取ることは一度もなかった。
札幌のスープカレー店で働く鼓田ミナレが
居酒屋で恋バナをしたことがきっかけになり、
ラジオDJを目指すことになる物語。
アニメ化されなければ、目にすることはなかっただろう。
物語を面白くするハードルが高すぎる設定だし、
そもそも、ラジオDJの仕事を取り上げること自体に
今さら感があって、興味がなかったためだ。
そして、1話を観てその想いを新たにした。
これは面白くないと。
あにこれにいなかったら、間違いなく1話切り。
アニメ独自に話の構成を変更して
1話に途中のエピソードを持ってきたことを
後で知ったが、個人的には原作通りの流れにしたほうが、
まだ付いていけただろう。
印象が変わったのは、4話だったのだが、
これは2度目を観ていると、最初の頃から
面白いことに気づく。ただし、やはり初見で
この作風に身を委ねることができる人は、
あまり多くない気がする。
濃密なストーリーがどこに進もうとしているのかを
視聴者が捉えきれないと、その世界に入っていくことは
できないし、どこに面白さがあるのかを理解できない。
そもそも物語に面白さを感じるポイントは、
人それぞれで千差万別だ。
だから、多くの若者の共通言語ともいえる
RPG系、異世界系、バトル系の作品が増えることになる。
要するに説明しなくても内容を理解できて、
魅力に気づきやすいし、多少の粗があっても
視聴者が付いてくる可能性が高いからだ。
例えば、私は長年映画ファンだったが、
視聴前の心構えとしていつも心がけていたのが、
その国の文化や慣習、宗教などを理解しようとすることだった。
だから自分のなかの常識から離れて、
その国の常識に身を投じなければならない。
その上で、自分が何を感じるのかが、
洋画鑑賞のひとつの醍醐味といえる。
洋画なんてものは、そもそもその国の歴史や
宗教、価値観、政治的な背景などを
考慮しないで観ているとさっぱり理解できないことがある。
特に宗教や世界史的な事件の知識があることは、
当然のこととして話が進められる。
視聴者側からすると、少しハードルが高い。
アニメばかり観ていると、そういう感覚から
遠く離れていることを思い知らされる。
つまり、何が言いたいのかというと、
この作品のような一般的なアニメにありがちな
一定のルールから逸脱したようなものを観るのが
難しくなっている自分の視聴時の感覚に気づいたのだった。
長々と御託を書いてしまったが、
キャラクターに魅力を感じられれば、
物語にスムーズに入り込むきっかけにはなる。
主人公のミナレは『無限の住人』の百琳が
現代に転生してきたような雰囲気。
奔放で大胆な性格には引き付けられる。
それに加えCV杉山里穂の
外連味たっぷりの喋りがいちいち面白い。
もちろん、上司でもある麻籐兼嗣や同居する南波瑞穂もいいが、
ボイジャー同僚の中原忠也の性格が物語を盛り上げる。
4話で何気にミナレを口説くシーンの
自分勝手な妄想は大爆笑もので、
個人的に最初にツボに入ったポイントだった。
それとともにミナレの元彼氏である須賀光雄の登場が
さらに物語を掻き回す。
『無限の住人』のときも特徴と感じていたが、
この作者は、狂気を孕んだキャラ作りが上手い。
{netabare}漫画で初めて両肩に首を乗せた
黒衣鯖人を見たときは度肝を抜かれた。{/netabare}
そして『無限の住人』からのもうひとりの
タイムスリップキャラ・城華マキエも
芯の強い滑稽さとでもいうようなものが滲み出る。
ミナレの父母という少ししか登場しない
キャラにも強烈な個性を纏わせる。
正直なところ架空実況という、
作品のいちばんのキモともいえる部分が
個人的にはあまり響かなかったため、
突き抜けた面白さを感じることはなかった。
しかし、ラジオ局とスープカレー店を中心にした
人間関係は存分に楽しませてくれた。
札幌という土地が持つ空気感もよく出ており、
心地良い不思議な波を感じることができる。
(2020年7月18日初投稿)