「PSYCHO-PASS サイコパス 3 FIRST INSPECTOR(アニメ映画)」

総合得点
75.8
感想・評価
229
棚に入れた
1357
ランキング
770
★★★★☆ 3.8 (229)
物語
3.8
作画
4.0
声優
3.9
音楽
3.8
キャラ
3.8

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ネタバレ

waon.n さんの感想・評価

★★★★★ 4.4
物語 : 4.0 作画 : 4.5 声優 : 4.0 音楽 : 5.0 キャラ : 4.5 状態:観終わった

シリーズをまとめたので長いです。覚悟してね。☆もシーズン通したもの

『PSYCHO-PASS』
 ディストピアの物語。
 これを見る際に思い出されるのはジョージ・オーウェルの『1984』だったり、フィリップ・K・ディック原作の映画『マイノリティーリポート』だったりが思い出される。

『1984』は監視社会によって行動がそして言語が規定されてしまう。それが俗にいう「ニュースピーク」言語が思考を規定するなら言語を規定すれば思考を規定するという考え方。日本語にすると言論統制と言えるか。
 街中に配置されたドローンや、監視カメラによるサイコパスの診断からは逃れられないという設定。実はその隙をついている人たちがいる。まさに1984である。

『マイノリティーリポート』は未来の犯罪を予知し犯罪を未然に防ぐどころか犯罪者として逮捕できる。
 これは『PSYCHO-PASS』でいうところの潜在犯とも考えられる。

『PSYCHO-PASS』ではこのふたつの作品にある特徴を引き継いでいる。
 模倣するだけではなく新しいひとつのセンスオブワンダーを視聴者に提供してくれている。この着想が素晴らしい。

 シビュラシステム
 この物語を語る上でもっとも重要かつ新しい感動を与えてくれるもの。
『1984』の監視社会で一番怖いモノはおそらく同じ人間だ。お互いがお互いを監視し合う、密告が正義となっている世界ほど恐ろしいものはない。
現実でも過去を振り返ればスターリンは言った。
「反抗心の無い労働者を育成するには、密告を推奨し、給食を飢餓すれすれにして、ちょっぴり食い物を増やしてやると彼らにたきつけるだ。そうすれば労働力を最大限引き出せる。彼らの苦情など一切無視すればいい。そうすれば人間の個性や首長など簡単に打ち砕く事ができる。」
 これがどれだけ事実かはさておき、この頃の監視社会から先へ進んで現在の中国は『PSYCHO-PASS』に近づいているのかもしれない。
 それは機械による監視が始まっている事を意味している。

 話をアニメへ戻そう。
 シビュラシステムはどんなものだったのか、から始めるのが良いだろう。
 一番抑えておきたいポイントは、人間の人生を決めてくれる存在として肯定的に捉えられているという点だ。
 しかし、これは一方からの視点でしかなくこれが描かれているのが1・2シーズンだった。少し話が前後しそうだから注意したいのだが、3・4シーズンは移民を受け入れることでこの抑圧されている側を浮き彫りにする構造をとっている。残念ながらこれは愚策だと個人的には思っているのだけれどそれはその時に書こう。
 要するに、シビュラシステムが絶対の正義だと思われていた。いや、大半の住民には正義だと物語が終わった時点でも思われている。

 1シーズン目が一番面白く見られたのが、シビュラというシステムの全容が全く分からず、なぜ槙島は犯罪を犯しても犯罪係数が上がらないのかというミステリアスな面に少なからずの希望を見出すからなのかもしれない。
犯罪者でありながら、薄々視聴者はこのシビュラシステムの異常さに気づいている。いや、製作者側は気付かせている。そして、システムに取り込まれない異形のものにカリスマ性を感じるんだ。
 しかし、その異形さが彼を犯罪に駆り立てたという理屈は悪役として設定されるバックグラウンドとして私は好きだ。
(クリストファーノーランの「ダークナイト」に出てくるJOKERのように)
存在を認めて欲しいから犯罪を犯すのだ。彼は静かに慟哭する。誰にも気づかれず、気づいてくれと慟哭する。
 (このプロット上手すぎない? だれが書いたの? ストーリー原案は言わずと知れた虚淵 玄脚本は深見 真と一緒にほとんどをおこなっている。神がかっている偶然かどうかは他作品を見ればわかるね。)
 槙島を追うことで、シビュラシステムの根幹を知る事になるのが、主人公の常森。彼女は物語を動かしてなどいない、逆に物語に動かされている。そういう意味ではどのキャラが主人公だったのか分からないと言えばそうかもしれない。視点は間違いなく常森なのだけれど、序盤で物語を動かしているのは槙島であり、それを追う狡噛だ。
 事件が起こり、それに振り回されて後を追い続けるのはデイビッ・フィンチャーの「セブン」のようだ。なんとなく最後も似てる。
 後半になり、狡噛は槙島と同一視され猟犬か獣か紙一重となっている。この危うさも面白さに拍車をかけ、どうなるのかと息をのむ展開となっていく。
 そして後半には狡噛も追われる立場になり、それを追うのが成長した常森だ。成長物語としても機能してるので、単純にSFでなくても面白いストーリーとなっている。

 さて、シビュラシステムではシステムだけれど、人間の意志が介在している、言ってしまえばこれはAIではなく、人間による超監視システム。
 犯罪者の心理を知るには犯罪者になるのが一番だ。つまり犯罪者であれば、犯罪者を見受け得るということ。その犯罪者的思考、そして免罪体質者はシビュラシステムの一部となり、並列化され思考を共有し一般市民のサイコパス診断を行い、結婚相手や職業までも決めてくれる。それに従っていれば幸せな日常を送ることができるようになっている。
 これは、監視だけではないことに気づくだろう。
 操作されているのだ、人間が人間に。支配ではなく操作が適切だと私は感じる。より具体的で個人にまで及んでいる所がスゴイ。しかも法を執行する側にいるのだから見ている側の恐怖はものすごい。
 客観的な判断だと思っているものが、実は誰かの主観的判断で行われている。ここまで書くのは蛇足かもしれないけれど、もし訴訟を起こされて、その裁判官が自分に対して恨みを持っている人間だったら? 公平な判決など期待できるだろうか、つまりそういうこと。

 第1シーズンと2シーズンはこのシビュラシステムと登場人物を絡める上手さがあり、シビュラシステムによるセンスオブワンダーがあり、新しい監視社会を私達に見せてくれた。

 続く第3シーズンだけれど、その前に『劇場版PSYCHO-PASS』が存在する。
 正直言ってこの劇場版は傑作だと個人的には思っている。
 これは2シーズンよりも、より1シーズンの未来としての想像力に富んだものになっているからだ。2シーズンは個人的には好きだけれど、1.5に近い。なぜなら、新しいものがないから。新しいキャラがいるとか言うやつがいたらハナクソくっつけてやるわ。これはシビュラシステムの裏をかく手法を使った物語になっている。新しいものはなかったけれど、話を進めて一歩未来へシビュラを導いた点が素晴らしい。だから2シーズンはなんだかんだで結構好きだったりする。
 さて、劇場版の話だがこの話のおかげで3シーズンで移民がとかいう話になってしまったのかと思うけれど、ちょっと待ってくれと言いたい。
なんで海外にシビュラを輸出したの? という話になる。
 この話をするとなるとこの作品の欠陥部分に触れねばならないのが心苦しい。欠陥部分とは、日本という国を動かす政治経済面についての言及がまったく無いことだ。これにより、全てがシビュラによる権限動いているように錯覚してしまう。
 こうなると仮説になってしまうのだけれど、シビュラシステムはそれぞれ適任となる人物をそれぞれの役所に登用する権限がある。適正診断でふるいにかけるわけだけれど、それぞれの役所のトップが局長と同じようにアンドロイド化されシビュラとリンクしていると考えた方が自然だろう。
 ここが描かれていない。軽く触れる程度もないのが欠点といえる。ただまぁそんなの無くても物語は成立するし、矛盾しない。でもね描いたらもっとシビュラの支配の怖さって表現できるでしょ。
 なんでシビュラは海外へと進出しようとしたのか、海外へのシビュラ輸出はどんなメリットがあるのか。
 シビュラはより完成されたシステムへと成長することを望んでいる。これは2期より明らかになっている。ただ、集合体であるシビュラにおいてそこまで規模を広げることに意義があるのかは微妙な感想を抱かざるを得ない。
 日本国内の免罪体質者だけでは物足りず海外へ進出し人類すべてを統括したいという野望を持つと考えると面白い。なのでそうだと思い込んでこの劇場版を捉えている。
 切り取って話を繋げれば、この劇場版は槙島と狡噛を同じ扱いに仕立て上げ、そのカリスマ性を引き継がせようとしているように感じる。憎い演出だがこれは1シーズンでそのカリスマ性に魅せられた人たちなら共感しえる高揚感だろう。ちゃんと繋がりを意識されているプロットである。
 この作品で描かれるシビュラの怖さは、不完全な偶像的な支配だ。シビュラシステム監視下のであれば、犯罪を犯しても犯罪係数が上がらなければ犯罪ではないという免罪体質を人為的に作り出せてしまっている点だ。
 この視点とシビュラを独裁と捉え民主主義であろうとする反政府組織が生み出され、対立する構造はポリティカルな面から見てもうまく機能している。さらにドラマとしての構造も一歩先へ踏み込まれている点もこの作品の素晴らしさを感じられるポイントだろう。

 そろそろ3期目の話をしてみようと思う。正直こっちは掘り下げる気力もなかなか湧かないのだけれど、まずはその理由から。
 3期目にはシビュラシステムの運用に関する新たな視点を持ち合わせていないように感じる。むしろ、1・2期で鎖国である状態から、劇場場版を通じて海外へ目を向け始めたことで起こる現象として移民政策を選んだけれど、果たしてこれがポリティカルな面でリアリティがある選択だっただろうか。想像して欲しい。シビュラとしては統制された現在の日本に脅威を持ち込む意味が果たしてあったのだろうか。鎖国をやめて国内に海外自治区を作りだすメリットはどこにあるのか。劇場版のシャンバラフロートが完全に機能しなかったという前提があれば自然に感じるけれど、どうだったかな、そうおいう描写あっただろうか。

 見直す気力がでないのは3期についてはシビュラの魅力が全く意識されていない点だ。要するに統制され支配されることへの魅力と恐怖の両立だ。
 そもそもシビュラをそっちのけで選挙を行い、民主主義で決定される都知事などあってはならない世界感じゃないのか? 私には今までのサイコパスが作り上げた世界観が感じられることは無く。ただ別の物語が進んでいくだけ。別作品だと考えるとなかなか面白いミステリーであるが、SFではないよね。既存の設定に乗っかったミステリーでしかない。
 しかも、ネタバレがシビュラシステムの初期デバックっていうね。
 まぁネタに困ったのだろうけれど。構成としても個人的には好みではない。こういったネタを仕込むのであれば、視聴者を置いてけぼりにしてしまう事を想定するべきだろう。ビフロストがどういった目的をもって行動していて、どうして厚生省と外務省と対立する構図をとっているのかを明確にしなければ、物語の軸がまったくみえないまま進んでいってしまう。
 これは脚本が悪いと感じる。
 これは個人的に見たかったサイコパスの続きとしてだけれど、海外への進出を果たしたシビュラのその後をこの世界観であるべき未来を想像して描いて欲しかった。それは移民受け入れになる可能性もあったかもしれないけれど、それよりもインドやアフガニスタン、中国、ロシアまで風呂敷を広げて考えられるようなスケールの物語をきたいしてしまっていた。
 しかし、このスケール感で話を広げて、まとめて、描き出せるほどの脚本が書ける人材などいないのだろうね。っていうか何クールかかるんだって話にもなるし。望むべきではないのは確かなんだけれど、じゃあシャンバラの話しないでよーって感じ。
 沖方丁さんもう少し頑張れなかったんかな。もちろん3期をサイコパス外伝みたいな位置づけで考えるなら全然ありだし、面白かったと素直に称賛する。でもね、サイコパスの続編としての位置づけだと違和感あるんだよなぁ。塩谷さんはこれで良かったのかな? これまでのサイコパスに思い入れあったのかな? とか好き放題言ってしまっている私は許されないだろうか。好きな作品だからこそなんだよ。

 正直3・4期は繰り返してみてないので、考察甘すぎますが、今のところ見る気でないので、この辺でレブーを終わらせてしまいます。
 シーズン通してざっと書いたので長くなってしまいましたね、ここまで読んだ方には申し訳ない。たいしたこと書けなかった。
 日数かけて書いた割には駄目ですな。やっぱりそれぞれで書いといた方がよかったかな。と反省しつつ終わります。
 お疲れ様でした。

投稿 : 2020/07/26
閲覧 : 268
サンキュー:

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