薄雪草 さんの感想・評価
4.6
物語 : 4.5
作画 : 5.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.5
キャラ : 4.5
状態:観終わった
巨匠の意気地も、婀娜には緩む。
君。
筆というものは、因果を滲ませるもの。
そうは思わないかね。
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かつては、鎌倉白山に詣で、毘沙門天に祈り、黒百足の大霊力にすがらなければ、愛娘に寄せる愛しさを表し得なかった。
のちにも、伊達ばりに聖人を装い、4代目や鍵盤の系譜を継承させるよりほかに、孫娘の愛くるしい笑顔には触れ得なかった。
もとより、容姿など見せられない為体であるから、虫のいい俗見であることは重々承知しているつもりだ。
なにより、隠し事でも秘め事でも、心馳せずにはいられないのが巨匠呼ばわりの名折れと笑納してほしい。
とは言え、老躯の腹いせを汲み取ってほしいとは尊大に過ぎると叱られるのは致し方ないところだが、心底、身の置き所のない私なのだよ。
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妾の子とは噴飯もの、舞台裏ならさもありなん。
下世話な漫画など笑止千万、薄っぺらで厚かましい俗世モノ。
そう決めつけていた。
然るに、貧相なアパートに孫が一人残されて暮らすとなれば、できうることは何を置いても手を尽くさねばなるまい。
ましてや、孫が画壇に分け入り、一角の才覚を示すとあらば、全てが報われ、全てに報いても余りあると思いたい。
孫子の幸せをひとえに願うのなら、表現者として揮う手合いの違いを論うのを本意にするつもりはない。
画風も書き手の個性、読み手の趣向とみるならば、きんたましましなる酔狂ごともまんざらでもない。
寧ろ、君の自由闊達な想像力の豊かさと、笑いを身上とする寛容性の広さが、孫の感性を磨いたのかもしれないね。
顧みれば、日本画と漫画は、絵物語をコミュニケーションとする古くからの "同志同類" 。
今となれば、私こそ君に深謝をすべきなのだ。
継承者、として。
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娘と孫娘のために、懸命にペンを揮った君。
愛しき娘への10余年の途切れぬ情愛。
かわいい孫娘への18年の弛まぬ努力。
かくなるかくしごとをかくし通すなど、才徳の志と見なさねば、天罰の下る思いである。
娘には、いまなお心が尽きない。
孫娘には、いたく心を尽くされる。
なにより、君の想いに心を砕かれる。
祖父とは、かくも尽くさねばと思うものか。
どのように尽くすべきかと、右往左往するものか。
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しかしなるほど、君と私の秘め事は、すこぶる世間の傾奇者というわけだが・・・。
孫娘が受け継ぐかくしごとは、日本画家か漫画家か。
はてさて、どちらに傾(かぶ)くものやら。
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ところで、いつか君たちの幸せな団欒を描かせてもらいたいと願っているよ。
そう。姫の好きなカレーを食卓に囲む構図はどうだろう。
サインは、かくし・・・いや、お互いさまのひめごと。
それでどうか、ね。