たまき さんの感想・評価
3.6
物語 : 5.0
作画 : 2.5
声優 : 2.5
音楽 : 3.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
【長文注意】巧みなキャラ描写と心理描写。内面に注目すべき作品
まず、本作はまさにコロナ禍とタイミングを同じくして放送していた作品で、同クール、ならびに次クールの作品が次々に放映延期を発表する中、最後まで完走して下さったのはひとえにスタッフの方々のご尽力の賜物であると思います。本当にありがとうございました。
さて、本作のタイトルは「球詠」ですが、これには2つの意味合いが比較的簡単に発見できます。そして、ここにこそ、「球詠」の本質があるのであると、私は思うのです。
まず一つ目の意味合いとしては、主人公たち。この作品は主人公で投手の武田詠深(たけだよみ)と、主人公の幼馴染みで捕手の山崎珠姫(やまざきたまき)が、埼玉県の新越谷高校で偶然出会うところから始まります。それぞれの下の名前をとって、「たまよみ」となるわけです。
その点から、球詠の魅力の一つとして、キャラクターが挙げられると思うのです。本作の特徴として、モブキャラが少ないことは一つ重要な要素であると思います。とはいえ、野球部はものすごく人数が多いものです。ましてや、新越谷高校は野球の古豪として知られていますから、一定数の人数がいることは容易に想像ができます。しかし、このキャラ特化を可能にしたのが、暴力事件によるリセットです。これによって、野球の古豪というイメージを保ったまま、キャラをベンチ不在の9人という最小人数に留め、それぞれのキャラに十分に焦点を当てることが可能になりました。
ここでは一人一人の詳細な説明は省きますが、そこそこの実力を持つ怜先輩や希や珠姫や詠深、所々でその持ち味を垣間見せる理沙先輩や稜や菫、超素人級の白菊や息吹など、何かに特化した「等身大の」「そこまでうまくない」選手達が色々な問題点を克服したり、お互いに触発し合ったりすることで、少しずつ「チーム」をつくりあげていく、いや、「チーム」ができあがっていくのです。このチームが自然に出来上がっていく感じは、他の作品ではあまり感じないところです。
特にアニメの範囲内で成長が著しかったのは{netabare}希と芳乃でしょう。裏主人公(裏カップリング)といっても過言ではありません。打順による影響があるとはいえ、チャンスで打てず、打点ゼロというのが続いていきます。自分を追い込んでいた希を芳乃が救い、希から絶大な信頼を勝ち取ります。影森戦の後に「うちは采配が良かったって思うっちゃけど!」と一人褒めちぎるぐらいです。そして当の芳乃は影森戦での息吹へのデッドボール以降、自分の策が裏目に出続けることで今度は自分がスランプに陥ります。それを払拭したのは今度は希でした。会心の一撃の逆転3ランホームランで梁幽館を窮地に追い込みました。プレイで見せる希は本当に格好いい選手です。{/netabare}
また、試合展開で主に描かれるのは、作戦ではなく心理戦であるというのも特徴の一つではないでしょうか。作戦もたくさんあることは伝えられますが、どんな作戦をとっているのかはほとんど示されません。この点から、タイトルの意味として「球の読み合い」からきたのだというのが想像できます。
特にそれが顕著なのは{netabare}影森戦の芳乃と、梁幽館戦の珠姫ではないでしょうか。息吹の死球を気にして元気のない芳乃を元気付ける為に希が放った安打。続く2番の菫は普段なら送りバントをしますし、監督もそれを提案しますが、強気な芳乃は相手投手の不安定な心理を狙って初球からエンドランを狙います。後からの分析で明らかなように、そこを分岐点として新越谷のムードが高揚し、最後には(打率5分の)詠深のタイムリーでコールド勝ちです。{/netabare}また、{netabare}かつてのバッテリーである吉川の配給を狙って次々にヒットを打つ一方、守備の際でも相手の心を巧みに読み、絶妙な配球でしとめます。特に強ストレートの覚醒を利用して前打席でホームランを放ったはずのラストバッター・中田を打ち取るシーンは圧巻です。{/netabare}
以上二本の軸がしっかりしている、非常に素晴らしい作品です。とはいえ、かなり駆け足で展開していて、原作からの脱落はかなり多いでしょう。本当に些細ながら重要な描写を省いていたことから察するに、描写不足というよりは、時間との戦いであったのではないでしょうか。
とはいえ、やはり気になる点も多い作品になってしまいました。まずはやはり作画。次第に回復してきたようですが、先行配信版はおそろしくひどい作画です。私はあまり作画の悪さが気にならない方ですが、アニメでも要所要所違和感を感じる箇所がありました。印象的なものだと4塁審事件や開会式の行進など…原作の画がものすごく素敵なだけに、アニメ化で痛手を被ってしまうのは非常に悲しいです。また、声優さんの声も、かなり好き嫌いが分かれた印象です。平均的な音域が高すぎて、たしかに聴き疲れしやすかったのは否めません。とはいえ、希役の野口瑠璃子さんや、怜役の宮本侑芽さん、芳乃役の白城なおさんらを筆頭に、皆さんキャリアが短い方が多いのに繊細で胸を打つ素晴らしい演技でした。声優の本分は芝居なのだと思い知らされました。今後のご活躍が楽しみです。