「いぬやしき(TVアニメ動画)」

総合得点
78.4
感想・評価
713
棚に入れた
3191
ランキング
554
★★★★☆ 3.6 (713)
物語
3.7
作画
3.8
声優
3.4
音楽
3.6
キャラ
3.6

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ネタバレ

蒼い✨️ さんの感想・評価

★★★★☆ 3.6
物語 : 3.0 作画 : 4.5 声優 : 3.0 音楽 : 3.5 キャラ : 4.0 状態:観終わった

露悪的な世界の物語。

【概要】

アニメーション制作:MAPPA
2017年10月 - 12月に放映された全11話のTVアニメ。

原作は、『イブニング』に連載されていた奥浩哉による漫画作品。
総監督は、さとうけいいち。
監督は、籔田修平。

【あらすじ】

犬屋敷壱郎は58歳であるが見た目は70歳過ぎの老人に見える。
サラリーマンであるが、真面目にコツコツ勤め上げるだけで会社では存在感が全く無い。
小言が多い妻と、老けてて格好良くない父親を疎ましく思っている高校生の娘と中学生の息子がいる。

念願の新居を購入したものの、日当たりが悪く狭いことから溜息をつかれるなど、
家族から尊敬されず、言葉からは愛情が感じられず関係が冷え切っている。

犬屋敷は真面目で温厚ではあるが身体が小さく非力で、
目の前で理不尽で嫌なことが有っても勇気を持てずに何も言えない自分を好きになれずにいる。
更には健康診断で胃ガンで余命3か月と宣告され、家族に打ち明けようとするがなかなか出来ない。

犬屋敷は『ボクの人生はなんだったんだろう』と飼い犬を散歩に連れて公園で泣き腫らしていると、
そこに居合わせた男子高校生・獅子神皓と共に不思議な事故に巻き込まれる。

UFOの墜落の巻き添えで原住民を害してしまった後始末をする宇宙人によって、
犬屋敷と獅子神は新たな肉体を与えられるが、人間の時の見た目と意識と記憶はそのままに、
宇宙人の兵器と様々な機能を備えたロボットに作り変えられてしまう。

戸惑いながらも人間を超えた力を、自分が人間であることを実感しようと人助けに使う犬屋敷。
そして、機械の身体になってしまった自分が生命ある存在であることを確認するために、
人を殺し続けることで目の前が生命が消える様子を観察しようとする獅子神。

二人は行動は対照的であるのだが、同じ能力を持ってしまった者同士で、
救う者と奪う者の考え方の違いで、やがて衝突することになるのだった。

【感想】

人間の尊厳みたいなものがテーマにあるのかな?

犬屋敷壱郎が置かれた状況。

人は一人で生きているのではないですよね。様々な人々が仕事なりで自分の役割を担って、
顔も名前も知らない赤の他人の生活に繋がっているのが社会。

そして、家庭でも会社でも感謝されることのない存在ではないか?との疎外感に悩まされてきた、
犬屋敷壱郎の、『自分は必要とされていない人間ではないか?』という孤独と絶望は、
表情や言葉で表現されている以上に根深いですよね。

原作者の奥浩哉氏は、ひこきもりの青年が社会復帰するまでのお話を過去に連載していたこともあり、
その手のネガティブな感情を取り扱うのが、比較的に得意なのかも知れません。

“機械になった自分が人間なのだと実感したい”それは匿名の行動で金銭的な見返りが何がなくとも、
特別な力を使って善行を繰り返すことで、たとえ顔を忘れられてもやったことは人の記憶に残る。
それは、これまでの人生に寂しさを感じてきた犬屋敷壱郎にとっての勲章になる。
完全な無私の善意とは言えないまでも、力を人のためだけに使う犬屋敷壱郎は、
十分すぎるほどに良い人と言えるでしょう。

一方で、機械の力を連続した一家惨殺事件などの殺戮行為に用いる獅子神皓。
女子供関係なく無慈悲な殺人行為を繰り返す一方で、
自分の家族への愛情、そして親しい人には人間らしい感情を見せる、
その獅子神の見せる表情が、流す涙が全く心に染みないですね。

声優向きとは言えない俳優の村上虹郎の獅子神の演技が一因でしょうかね。
犬屋敷役の小日向文世は、まだ慣れることが出来たのですが、
村上虹郎の演技が拙いせいか、獅子神どれだけ深く傷つき涙流そうとも、
その涙や叫びの全部が薄っぺらい自己憐憫にしか感じられないのですよね。

もしそれが計算通りで、獅子神に感情移入させないための故意の配役ならば凄いのですが、
単純な演技力不足ならば、アニメの獅子神は救われないキャラだと思ったりしますね。
まあ、身勝手に人間の生命を奪い顔色一つ変えずに行う殺人の規模がエスカレートしていく、
獅子神の異様なキャラ立てに棒っぽい演技が一役買っていますね。

家庭内や会社で居場所を感じられないながらも、社会正義の観念を持つ犬屋敷と、
複雑な家庭環境であるが両親の愛を受けながら、自分のごく狭い半径しか大切に出来ない獅子神。

そんなふたりの対比。彼らの行動を隔てたものはなにか?単なる善悪ではなくて、
それぞれが欲したもの。犬屋敷は社会の不特定多数相手に自分が必要とされている実感。
内向的な犬屋敷が他人との関わりを求める一方で、
見た目はリア充イケメン男子な獅子神は、自分が心許せる僅かな人と一緒に幸せになれる、
そんな環境さえあれば、その他は死のうがどうなっても良いと殺戮を実行する閉鎖的な感情。

明らかに獅子神の行動は狂っているものの、
自分が欲しいものを只管求めているという一点では一見正反対に見えても実は似ているふたり。

その構造の物語を、3D動画技術を駆使したレベルの高いSFアクション作画や、
ホームレス狩り、ネットの中傷事件、ミヤ○殺害、アメリカの某事件を連想させるエピソード等の、
不謹慎でショッキングな事件の数々の映像で楽しむ?
見る人によっては心が痛いのですが、なかなかに飽きさせない作りの作品ではあると思いました。

ただ終盤の駆け足気味な展開…。機械になってしまったふたりが心とどう向き合いどう決着つけるか?
家族と向き合えた犬屋敷はともかく、獅子神のほうが丁寧に扱えなかったのか?
原作自体の描写不足そのままであり、深く丁寧に獅子神を描ききっていれば物語の評価が上がるのに、
ちょっと残念に思うところがある作品でした。


これにて、感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。

投稿 : 2020/06/12
閲覧 : 552
サンキュー:

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