tag さんの感想・評価
4.5
物語 : 4.0
作画 : 4.5
声優 : 4.5
音楽 : 5.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
「絶望的な差からは、”期待”が生まれる」
この物語は、果たしてミステリーだろうか?はたまたラブコメか?青春群像劇か?体裁はもちろん「ミステリー」です。が、ミステリーそのものの謎解きは、表題「氷菓」の謎解き以外は、そこまでグッとはこない。しかし、傑作であることに疑いなし。では何なのか?
感想のタイトル中に「差と期待」という文字があります。タイトルそのものは作品中で語られるセリフであり、この物語のメインモチーフではと思っています。
主人公とヒロインの間には「性格」も「立場」にも、決定的な差があります。主人公と男友達との間には、男同士だと結構刺さる「能力」の差があります。作中劇の物語にも、様々な「差」がプロットとして出てきて、その差が生み出す「期待」が陰にも、陽にも作用し、動機を生み出す構造にあります。ただ、ミステリーそものの構造はシンプルで、これを主題にした物語ではない。
主人公は、この「差」と「期待」に引っかかりを持つ性格で、ミステリーの謎解きをするのですが、不思議と「期待」には応えませんし、その「差」を埋めるようなハッピーエンドにも導きません。切なく悲しいエンディングのままにします。多分、彼は、高校生だけど、少し現実に絶望しています。その理由となるエピソードがあるそうですが、アニメでは描かれていません。ヒロインは、その度、その絶望に対し、少しの希望を生み出し、観衆を引き付けます。
そうしているうちに、観衆は、この圧倒的に人の心の機微に敏感だが、少し人生に絶望している主人公が、ヒロインによって救われることを切に願うようになります。そう、二人には絶望的な「差」があるがゆえに、「期待」が生まれるのです。
物語中で、その「願い=期待」は叶わない(と言うか微妙)のが、これまた切ないですね。アニメのバッドエンドは小説と異なり難しいと自分で述べましたが、この物語は、切ないのですが、不思議と、後日談を「期待」してしまう自分がいました。多分、彼らは高校生でまだ未来は未確定で、ヒロインはとても期待の持てる女の子だからかもしれません。これまた、年齢と設定が生み出す「絶望的な差と期待」と言えるかもしれません。
音楽は、オープニングもエンディングも挿入曲も珠玉です。特に、物語後半の、謎解きのシーンに流れる挿入曲は気に入っています。そう、まさに「絶望的な差と期待」を感じさせる曲です。
余談ですが、この物語のご当地が岐阜県高山市ですが、かく言う自分も岐阜県出身で、岐阜の公立高校の校舎って、みんな同じ作りなんです。校舎と校舎をつなぐ渡り廊下や、自転車置き場も、そのまんまです。そういや、こうだったな、渡り廊下のステンレスの手すりに、俺も落書きしたな、と。そういう意味でも”氷菓の評価”は、少しブーストしてしまったかもしれません。