フィリップ さんの感想・評価
4.2
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 4.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.5
状態:観終わった
「ぼっちの思考」からの脱却
アニメーション制作:feel.、
監督:及川啓、シリーズ構成:菅正太郎、
キャラクター原案:ぽんかん⑧
キャラクターデザイン:田中雄一、
音楽:石濱翔(MONACA)、高橋邦幸(MONACA)、
原作:渡航
「ぼっち」が活躍する痛快なダークヒーローもの。
1期の展開から、そういう視点で作品を観ていると、
2期では、何をやっているのか分からなくなる。
私の場合、1期で何をやっているのかが
よく分からなかったが、2期になってようやく、
全体像が見えた気がした。
つまり、この作品は主人公が
「ぼっちの呪縛」から逃れる物語なのだろう。
もちろん、それは仲間をたくさん作って
リア充になることではない。
「他者」を受け入れ、「他者」から受け入れられ、
本当の関係性を作ることだ。
そのためには身近な人が自分に対して、
どのような感情を持っているのかを理解し、
「ぼっちの思考」から脱却しなければならない。
それは、どうしても解決できない困ったことが起きたときに、
人に頼ることもできる心持ちであることだ。
そして、八幡が嫌っている偽物のなかにも
本物のようなものがあることを認めなければならない。
八幡のモノローグは、だいたいにおいて正しい。
長年、「ぼっち」を続けてきたこともあり、
集団における人の心理の読み取りは的確だ。
そのため、何か問題が起こったとき、
どのようにすれば、人が傷つかずに
解決させられるのかに思いを巡らせることができる。
ただし、八幡のやり方は自分の犠牲を伴う。
そのことによって、身近な人が傷つくことを
想像できない。そして自分が好意を寄せられる
ことを自覚することに臆病になっている。
八幡は、いつも「ぼっち」として
「他者」を観察する立ち位置だったため、
そこに自分自身が含まれていなかったからだ。
そういうことも含めて、
八幡は「他者」の全てを知りたいと願う。
それが「本物」を手に入れることなのだ。
クリスマスパーティーの企画を
雪乃と結衣の助けを借りて成功させたことで、
八幡はひとつの大きな成長を遂げる。
その過程の描き方がとても丁寧だった。
1期のときに出会ったぼっちの少女・留美と再会し、
自分はどうすれば良いのかを改めて考える。
以前、留美を助けるために起こした行動は、
留美を孤立させている集団を分離させること。
しかし、今回、八幡が留美に対して取った行動は、
彼女の気持ちに寄り添いながら、
他人との距離を縮めることを諦めさせないことだった。
そして、平塚に3人の関係性について諭され、
何が大切で、何をすべきかを理解する。
やがて、八幡は自分でもよく分からない気持ちも含めて、
大切な人たちに、本心を伝える。
自分が何を求めているのかを知ってもらおうとする。
そのことが重要だった。
八幡が行動して心を開いたことで、大きく展開が動く。
クラスカーストの上位に位置する
葉山や優美子、そしていろはなどともDLで
一緒に遊ぶことになり、身近な人間としての
彼らの優しさや悩みについて少しだけ理解していく。
「似たもの同士」の八幡が自分の殻を破ったことで、
雪乃にも変化が生じる。
「自分も変わらなければならない」という
心境へと雪乃は傾いていく。
姉に対する想いを正直に話したのも
そのひとつの表れだろう。
{netabare}姉の後を追うことばかり考えていた雪乃だが、
八幡の影響もあり、進路を姉と同じ理系ではなく、
文系志望の決断をする。
ただ、雪乃の問題は、それでは終わらない。
姉という寄る辺から脱却した彼女は、
何を基準に物事を決めていけばいいのか、
分からなくなってしまう。
そんななかで雪乃がはっきりと自覚したのは、
八幡への恋心だった。{/netabare}
陽乃に言わせると、
それは「依存」であって「偽物」なのかもしれないが。
{netabare}雪乃の心情の変化を察知して、
いち早く行動を起こしたのが由比ヶ浜結衣だった。
彼女はひとつの策を練ったように見えた。
それは、雪乃が八幡にバレンタインデーの
チョコレートを渡して、両想いになることを
阻止するため、わざわざ3人で水族館に行き、
自分のクッキーを八幡に渡したことだった。
そして「告白」ではなく「お礼」だと強調した。
つまり、3人の関係性を今の状態のまま
ずっと続けることを雪乃に約束させたかったのだ。
寄る辺がなくなった雪乃に対する結衣の提案した答え。
それは、3人の関係性を寄る辺にすることではなかったか。{/netabare}
ただ、具体的なことは何も話されていないので、
彼女の行動が本当のところ何を意味していたのかは、
原作を読んでいないので、最終話を観ただけでは分からない。
結衣が雪乃に向けた提案を八幡が拒否することは、
最初から予想できていたことも引っ掛かる。
そして「全部もらう」という言葉が
指しているのものは何だったのか。
結衣のことではっきりしているのは、
物語の最初の段階から八幡のことを
ずっと好きだったということだけだ。
2期は、八幡の大きな問題のひとつは解決したものの、
かなり中途半端なところで終わっている。
3人の関係性はどうなるのか。
八幡の依頼は、どのような形で叶えられるのか。
そして雪乃の依頼とは何か。
2度とは戻らない青春ラブコメを3人は駆け抜ける。
(2020年6月7日初投稿)