takumi@ さんの感想・評価
3.9
物語 : 4.5
作画 : 3.5
声優 : 3.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
このクールさはフィルムノワールを感じさせる
女子高生と殺し屋、2つの顔を持つ女の子、砂羽が主人公。
始終、一貫して冷酷な展開を見せる今作は、
原作、脚本、キャラクターデザイン、絵コンテ、監督を
梅津泰臣によって手掛けられた1998年の作品。
弾が体内で破裂するような仕掛けのピストルとか、
手に千枚通しのようなものを仕掛けてたりと、なかなか面白く、
この梅津監督らしい派手なアクションにも一貫性があって楽しめた。
とにかく、見せ場が満載だったと思う。
舞台は一応日本となっているが、殺し屋たちのアジトやその近辺、
アメリカあたりのスラム街のように見える。
そんな無国籍な雰囲気が、このダークな展開を見せるストーリーに
リアリティを持たせる効果を感じた。
1998年の作品とのことだが、
フランスやアメリカ映画で流行したフィルムノワールの影響を多大に
受けていると思える展開とラストは、好みが分かれそうで、
でも僕はけっこう懐かしい気持ちで観ていたので、
こういうのもアリかなと。
もちろん、後味が良くて心から楽しめた作品は、
同じ梅津監督作品である『MezzoForte』のほうだけれど、
この『KITE』は、1940年代から1950年代にかけてのギャング映画に
よくあったような救いようのない主人公の退廃的悲壮感によって、
観終わった後しばらく虚無感に襲われるような、ズッシリとした重さがあり、
でも、それが現実的でもあるので、どこか納得してしまう。
だって、もともとインモラルな内容なんだしね(苦笑)
{netabare}
主人公の砂羽に関しては、すごく同情するし、
プラトニックな愛情をひそかに育んでいた音不利が始末されるのは、
砂羽をさらに孤独と奈落の底に叩き落すであろうことは
わかりきっているのだが、音不利にとっては、ある意味解放とも
受け取れるのではないかなと思ったりした。
そして、銃声の後に落とした買い物袋からキャットフード缶が転がる、
という、間接的な見せ方が秀逸だった。
砂羽がいつも身に着けているピアスにいち早く気づいて綺麗と言い
ピアスをしていない日の砂羽を無言でなぐさめた音不利と、
「あんなもの片方あればいいじゃないか」と実際は踏み潰していた赤井
との対比も、砂羽の心が音不利に急速に傾いていった気持ちが
わかりやすく描かれていて、なかなか良かった。
それだけに、2人で手を取り合って幸せに・・というラストを
予感したいところだったが、ダークに統一された展開を全うして
赤井が言っていた「代わりの新しい殺し屋」を最後に登場させ、
もしかしたら続編に繋げようとした?のかもしれない。
そしてこの物語は何よりも砂羽の復讐劇。
復讐するためにあえて、犯人である人間の意のままになり、
殺し屋となって殺しの手ほどきを受ける・・っていう彼女の
深い執念と哀しみは、何度か生々しく描かれる性描写以上に、
観終えたあとのほうが強く伝わってくる。
そして観るものにその想いを強くさせるには、ハッピーエンドじゃなく
彼女が孤立無援にならないといけなかったよなと。
観終えてしばらく経った今でも僕はそう感じている。
{/netabare}