雀犬 さんの感想・評価
4.7
物語 : 5.0
作画 : 4.5
声優 : 5.0
音楽 : 4.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
青春は後悔でできている
ループものや並行世界ものはフィクションの定番であり、名作も多い。なぜ人は繰り返しの物語に惹かれるのだろうか。
一度きりの人生で正解ばかりを選ぶことなど不可能で、その道中で「あの時にああしていれば」という後悔を多かれ少なかれ誰しもが心に抱えている。とりわけ、自由で選択肢の多い青春時代は様々な後悔で彩られているもの。だから繰り返しの中で足掻く主人公の姿に共感してしまうのだろう。
「四畳半神話大系」の主人公は京都大学の学生だ。普通の人は将来が約束されたようなもので羨ましいと思うところだが、当の本人は現状に満足がいかず、このままでは駄目だと焦燥感を抱き、大学の1回生からやり直したいという妄想に憑かれている。人によってはあまり主人公の気持ちが理解できないかもしれない。
主人公の「私」はおそらく、高校生活を色恋にも趣味にも走ることなく必死に勉強に励み、結果京都大学に受かることができたのだろう。充実したキャンパスライフへの期待と、将来のために頑張った。そこまでは良かった。しかし名門校や進学校に進んだ方は心当たりがあるかもしれないが、優秀な学生の集団に入ってしまうと「頭が良い」というこれまで自尊感情を支えてきた長所は輝きを失ってしまう。逆に陰気な性格、冴えない外見といった短所が心を蝕んでいく。
「私」は恋人がいないことを、非常に気にしている。そして「黒髪の乙女」なる理想の美神(ミューズ)を追い求めてやまない。「これまで女の子と付き合ったことがない」という動かしがたい「実績」から「自分は非モテである」というマイナスイメージが付き纏う。大学内で「イケてる」グループに属していない彼には合コンに誘ってくれる友達もいなさそうだ。一緒につるんでいるのは、小津という他人の恋路の邪魔をすることに熱を上げる悪友である。
そんな彼が劣等感から解放されるには、「黒髪の乙女」と恋人になる、この一発逆転しかない。かくして主人公は理想の女性像をどんどん膨らましていく。世の男性が陥りがちな思考である。お前は俺か。これを僕は「女神様症候群」と呼んでいる。
「女神様症候群」を拗らせた私は、並行世界で入部するサークルを変えては大学の1回生からやり直す。でも待ち受けているのはやり直す前とどっこいどっこいの日常であり、「黒髪の乙女」と恋仲になることは叶わない。
木屋町通の路上で占い屋をしている怪しげな老婆が、毎回口にする台詞がある。「好機は何時でもあなたの目の前にぶらさがってございます」と。そう、これは「青い鳥」の物語なのである。幸せの青い鳥は実は身近なところにあった。その人生訓は100年たっても生き続けている。
問題はそのことに「私」が如何にして気付くか、そこが一番の見せ所なのだが、「四畳半神話大系」は実に見事だった。至るまでの道中も洒落たユーモアに富んでいてループ系にありがちなマンネリ感はなく、どのサークルを選ぶ回もすこぶる面白い。切り絵のような独特の作画、私の早口なしゃべりは好みが分かれるところかもしれないが、味があって僕は好きだ。
「青春は、後悔でできている」
この言葉に共感できる人は是非とも見て欲しい傑作。