ムッツリーニ さんの感想・評価
3.9
物語 : 4.0
作画 : 4.0
声優 : 3.5
音楽 : 4.0
キャラ : 4.0
状態:観終わった
出来なかったことが出来るようになる喜び
「一時間、幸せになりたかったら酒を飲みなさい。」
「三日間、幸せになりたかったら結婚しなさい。」
「八日間、幸せになりたかったら豚を殺して食べなさい。」
「永遠に、幸せになりたかったら釣りを覚えなさい。」
中国古諺
新しい事を始めるというのはいくつになっても良い物です。
私はグランダー武蔵を読んで、バスのいない沼でバス釣りをして結局釣れないまま辞めてしまったクチなのですが、大人になって色々な所に行けるようになると、渓流やら管理釣り場やら海やらと気軽に足を運べる事に気づいて、また「いっちょやってみるか」と実に20年ぶりくらいに釣具屋へ行き、釣り場をリサーチして道具を揃え、いざ地元の山の渓流へ向かい最初の一匹を釣り上げた時は思わず「やった!」と声を上げました。おそらく近くの管理釣り場から逃げてきたのだろう、20cmくらいの小さいニジマスでしたが、何物にも代え難い喜びでした。
だから、この物語の主人公である所の鶴木ひなが魚が釣れた時に「やったぁ!」と声を上げる気持ちが私にはよく解るし、一番好きなシーンでもあります。
挑戦し失敗を重ねてようやく成功する喜び。出来なかったことが出来るようになる喜びは生涯に渡って大切な思い出になるんですね。
そしてそういう思い出を楽しかった物にするために、釣りに対する問題点ともしっかり向き合っているのがこの作品の良い所で、大抵の釣り漫画などはトーナメンターになったり、ユルすぎて真面目な話を回避する方向に向かったりするんですが、この作品にはそうした"甘え"を許さないストイックさもあり、全てを引っくるめて楽しむ事が大事ということを伝えてくれるとても良い作品だと思います。
問題があるとすれば、例の感染症でアニメの放映が延期になったり、作者が豪雨災害に被災して連載が中断するなど、作品自体が何かとツイてないことくらいで、アニメとしては描写もすごく丁寧だし、仕掛けや釣り物の解説などもしっかりしているので、釣りに興味はあるけどやったことはない人にも解りやすく出来ています。
特によく観察して描いたのだろうなと思われる、釣り特有の一連の動きや魚や鳥達は必見で、言われてもよく解らないロッドの動かし方なんかも、キャラによって個性があるというか、上手い人と下手な人の差が見ていて非常に参考になると言いますか。
この作品を見てこれから釣りを始める人、昔やっていて戻ってきた人、昔も今も釣りをしている人、全ての釣り人は高橋治の釣り十訓を胸に刻み、楽しく釣りをしましょう。
①釣れないもんと思って釣り場へ出よ。
②他の人に迷惑をかけるな。
③新しい道具は自殺の道につながると思え。
④磯釣りをやるなら自分の釣り座を責任をもって掃除せよ。
⑤いかなる種類のコマセも使うな。
⑥海にモノを捨てるな。
⑦匹数制限、入場料制度を設けよ。
⑧食えない魚は釣るな。食べきれない魚は釣るな。
⑨自然の怖さを知れ。
⑩よけいに釣ったら恥だと思え。
…いや、コマセくらいは使わせてくださいよ先生