STONE さんの感想・評価
4.3
物語 : 5.0
作画 : 4.0
声優 : 4.0
音楽 : 4.5
キャラ : 4.0
状態:観終わった
救済の物語
アニメに限らず、何らかの作品に触れる際、自分の場合はジャンルやコンセプトなどを把握して、
それに沿っているのか?、あるいは外れているのか?といった観点から考えることが多いが、本作は
そういった位置付けが難しく、それでいて言葉にしづらい魅力に溢れているという不思議な作品
でした。
ジャンル的にはファンタジーの範疇に入るのだろうけど、内容は既存のファンタジー作品にはない
ユニークなもの。ただユニークと言いながらも具体的にどこがとは挙げにくい作品ではある。
個性的なファンタジーと言うと独特の世界観や設定を持つものが多いが、本作の灰羽などは天使を
モチーフとしたものでそれほど斬新なものというわけでもない。
設定・世界観はお馴染みなものだが、鬱やダークといったテイストを強めた切り口だったり、逆に
コメディギャグに寄せたりすることで独自性を発揮する作品もあるが、本作はそういった作品でもない。
灰羽としてグリの街で暮らすことになったラッカの日々の生活を描いた一種の日常系作品という
側面は、中盤のクウの巣立ち以後のシリアス展開で急激に弱まる。
グリの街及び灰羽自体に秘密が多いことから真相究明のサスペンス要素で持っていき、その真相は
ファンタジー的装いに対してSF的本質があるものだったり(特に街から出られないという設定が
そう感じさせた)、あるいはかなりショッキングなものがあるかも?、と思ったこともあったが、
結局は特に明らかになることなく終わってしまった。
ただ作り手側が認識している裏設定のようなものはありそうだし、灰羽達の心の救済を主題に
置いているような作品なので、作中で細々と設定・世界観を描かなくてもいいかなと思った。
自分が観た範囲で強く感じたのは宗教的要素で、灰羽は死んだ子供で、グリの街は天国へ
行くなり、転生するなりといった次へ進むために、罪を清めるキリスト教における煉獄的な場所
なのかな?といった印象。それでいてグリの街は普通の人も生活しているというのが
面白かったりするが。
そういう点では他作品だと「ANGEL!BEATS!」が近しい作品なのかな。本作の方が古いけど。
そして、作中における灰羽は死者のようだが、これは現実世界における精神的悩める者の暗喩の
ようにも思えた。
そういった心の救済という点では、ラッカとレキのダブル主人公といった印象だが、救済の方法を
神に求めるのではなく、他者との関わり合いに求めるという点が面白い。
多分に観念的な話であるし、基本的に暗めで静的なテイストなど、人によっては退屈な印象を
持ちそうな感じがあるが、個人的には心の痛みに主眼を置いた部分は考察なども含めて見応えが
あるものだったし、そのテイストに合わせた作画の色彩や音楽も実に素晴らしかった。
願わくばラッカや視聴者がレキの街や他の灰羽に愛着を覚えるような、日常テイストの回が前半に
もっと欲しかったかな。
2020/05/24