蒼い✨️ さんの感想・評価
3.3
物語 : 2.5
作画 : 4.0
声優 : 3.0
音楽 : 3.5
キャラ : 3.5
状態:観終わった
イロモノ。
【概要】
アニメーション制作:サイエンスSARU
2017年4月7日に公開された劇場アニメ。
原作は、森見登美彦による小説。
監督は、湯浅政明。
【あらすじ】
京都にある某国立大学(某の意味がない)に通う学生「先輩」は、
同じクラブの後輩である「黒髪の乙女」に恋していた。
彼女とお近づきになるために偶然を装い、
「ナカメ作戦(なるべく彼女の目に止まる作戦)」を実行し、
自然な形で外堀を埋めて、ゆくゆくは恋人になろうと、
日々彼女に接触しては挨拶を繰り返していた。
一方で「黒髪の乙女」は、「先輩」の行為をストーカーだと全く認識せずに、
裏表なく接してくれる、とても良い子なのだが、
「先輩」の気持ちに全く気づいてくれない。
この作品は、そんなふたりのそれぞれの視点から進行する、
京都の長い一夜の不思議な物語である。
【感想】
『四畳半神話大系』と同じ世界線の物語なのかな?
んで、多分あっちのアニメの視聴者を随分と意識したファンサービス的な作りで、
原作との変更点がいろいろありますね。
原作小説と、琴音らんまる氏による漫画版を踏まえて視聴してみると、
未読の場合と比較してイメージが変わるかと。
こっちはあくまでも湯浅監督の解釈で調理されたクセの強い映像作品。
同じ森見氏原作の『ペンギン・ハイウェイ』が映像のアプローチが違っていて、
全く違ったイメージなのも考えると、これは森見作品というよりも、
湯浅ワールドの映像表現を楽しむ作品なんだなと思えてきますね。
原作では春夏秋冬の四つのエピソードがアニメでは何故か一晩の物語にすべて押し込められて、
無理があったり、他にはキャラの性格や設定のアレンジが多めであったりする。
それは、原作では言葉を交わさずとも「黒髪の乙女」に安心感と心地よさを与えてくれた、
漫画版では笑顔が素敵で仙人を彷彿させる李白翁が、アニメでは、常に人生に絶望していて厭世的。
容姿も大人(たいじん)の器に見えず、原作などと比較すると格落ちな存在になっている。
原作や漫画では見目麗しい少年という設定の“古本市の神”が何故か、
アニメ版『四畳半神話大系』の小津そっくりなブサイクなキャラに変更されていたりと、
原作の文章にあるキャラの魅力を映像で表現しようという意欲が皆無で、
監督が得意とするアニメ芸を見せるのに最適化されたマイワールドの住人に変換されている。
諸々の敢えて変えてある部分を踏まえた上で、その違いを楽しむことができなければ、
色々文句が出てくる内容だと思います。
なかでも、個人的には一番良くないと思ったのは、『ご都合主義者かく語りき』の章の改変。
それは、大学祭での一組の男女の一年越しの純愛のエピソードであったのですが、
とある男の原作での恋の対象である須田紀子さんが登場せずに、
コメディタッチのミュージカル&ホモホモしい展開に差し替えられおり、
オチとして別キャラに紀子さんの名前が与えられて話が大きく変わっていることに。
男と紀子さん。この、ふたりの純粋なラブロマンスが物語に与える影響。
男が紀子さんに一目惚れしているのと同じように、紀子さんの男に抱く熱い情熱に感化されることで、
「黒髪の乙女」が、生まれてはじめて恋愛に興味を持ち、のちの展開につながるのですが、
その重要な部分が丸ごと無くなっていたりと原作の物語上で意味があるエッセンスを捨ててまで、
奇抜さとウケ狙いに走りすぎているのが滑っています。
と、こんなふうにアニメを作った人たちは、物語を構成する心理要素に無頓着ではないでしょうか?
恋愛モノとして楽しむには、アニメではギャグとか色物方面にアレンジや演出が偏りすぎていて、
それが物語の雑音になっていて、何故あの登場人物はこう思ってこうしたか?などの、
原作の物語を大事にしてほしいと思う自分にとっては、これも原作からのアレンジが入ってますが、
シンプルに「黒髪の乙女」の心理を拾っている漫画版のほうがしっくり来る内容です。
比べると、こっちはジョニーなど『四畳半神話大系』のネタ的な部分を流用したり、
鼻水やゲロまみれでばばっちく、お遊びの演出部分がくどく過剰装飾になっていて、
物語を補完するため演出ではなくて、演出を見せる素材として原作を利用しているという。
主従関係の逆転状態で作品全体を塗りつぶしている状態であり、
原作の文脈から拾われるべきキャラの内面の微妙さの扱われ方が丁寧ではない。
結局は万事、原作の魅力を映像として昇華することを目的として作られていなく、
湯浅監督のアーティスティックな演出を楽しみたいファン向けという性格が強い作品で、
素直に楽しみにくい。ハッキリ言うと原作のほうが面白かったですね。
いっそのこと『ペンギン・ハイウェイ』のスタッフで湯浅バイアスを取り除いた演出で、
瑞々しさを強調された恋愛ものとして見てみたい作品であると個人的には思いました。
これにて感想を終わります。
読んで下さいまして、ありがとうございました。