ちょま さんの感想・評価
4.6
物語 : 5.0
作画 : 3.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
これが!近未来SF作品の完成形!
それまで未来ものとなると「空飛ぶ車」や「レーザー銃」などファンタジー色が強いものが多かったが、リアルの最先端技術を発展させた科学的描写によって揺るぎない「近」未来の世界観構築に士郎政宗原作の「攻殻機動隊」と押井版劇場アニメは成功した。しかし逆に描写が緻密すぎて視聴者に一定以上のレベルが求められてしまった弊害もあった。
そこにこのSACの登場。近未来SFを「楽しめる」ものとして完成させたと思う。
意識をネットに直接つないだり、身体のサイボーグ化、AIロボットの存在が当たり前になった近未来2030年を舞台に、日本国総理直属の公安9課が様々な事件・犯罪に挑んでいくお話。
多くの作品だと新入りや未熟者を主役に据えて、新しい世界に飛び込んだり話を通して成長するのがテンプレだが、この作品は組織がすでに出来上がっておりその性質上みんなエリート。草薙素子という主役はいるがあくまで「公安9課」としての物語という側面が強い。
警察モノではあるが、「大使の息子の犯罪・革命家の追跡・軍内部のスパイ調査」など、外交問題・世論・政治などに繋がるような重大なものが多いのがミソ。加えて近未来的設定モリモリなのでとにかく話が難しい!一応セリフがとても説明口調なので「なんとなくこうかな?」と半分は理解できるけどま〜キツイ。
しかし厨二病的な「俺の考えたすごい設定!」ではなく、あくまでリアル寄りの科学描写や、作中語られはしないが緻密な国際情勢の変遷を土台にしているため、説得力のある骨太なアニメになっている。
難しいストーリーでも「ロボットと人間の境目とは?」「過去の因縁」「宗教とサイボーグ」のようにわかりやすい部分も表現されるため視聴者を置いてけぼりにはしない。
また海外の刑事ドラマを参考にしていることもあり話のテンポが非常によく、一話一話がきっちり完結していてどこからでも楽しめるエンターテインメントぶり。
キャラクターも口数多く喋ったり変な口調になったりして個性を出してくることはない。言葉少ないながらにしかしキッチリ存在感を示してくる「カッコイイ」キャラだ。一方学習意欲旺盛なAIロボ・タチコマがその可愛さを存分に発揮してキャラ描写の緩急もバッチリ。
世界観というか背景の描写も見事で、発展しすぎず、しかし現在すぎず、巨大なビルが立ち並ぶと同時にまるでスラム街のような汚い路地裏も存在し、攻殻機動隊の中でどのように日本が近未来を迎えたかを理解させてくれる。
豪華声優陣の素晴らしい演技、カッコイイBGMとあらゆる面でも完成度が高い作品だ。
が、個人的に感じた問題点もあった。
作画が安定しない!作画崩壊とまではいかないがたまにキャラの顔が「ん?」というシーンがある。少佐の髪の毛がまるでヅラのごとく浮き気味になったときは思わず吹いた。
そして大筋の「笑い男事件」が分かりにくい!基本1話1事件だが並行して作品通して1つの大きな事件、「笑い男事件」を追う作りになっている。これが過去の事件との繋がりを示したり、さらに新しい関連事件が発生したりするので時系列を把握しきれない!ただでさえ難しいアニメが余計にチンプンカンプンになる。3周してようやく理解しきれたが、初見で完全理解できる人はなかなかいないんじゃないだろうか?それでもついつい引き込まれる魅力がある作品ではあるのだけど。
という不満点もあったが先述の通り自分としてはほとんど非の打ち所がない。もちろんエンタメ寄りなのでちょろちょろガバい描写もあるが、そこもバランス良く構成されていて指摘されなければ気付きもしないだろう。
あとはそろそろ明るい攻殻機動隊を見たいの!原作とかPS1のヤツみたいな。もうシリアスはお腹いっぱいだよぉ…