千藤ちと さんの感想・評価
5.0
物語 : 5.0
作画 : 5.0
声優 : 5.0
音楽 : 5.0
キャラ : 5.0
状態:観終わった
人の性質を率直に表現した良作
原作未読、アニメ、映画視聴済。
私の好みの話になりますが、アニメに関わらず創作物は作品の骨子であるテーマが提示され、視聴者に対しどのようにアプローチしてメッセージを伝えるのかが作品の価値を決める最も重要な要素だと考えています。
率直に言うなら、娯楽より教養や感情を優先したいという思考です。
あえて異世界系でボーダーを引くなら、「このすば」は受け付けないけど「リゼロ」は好き、みたいな感じです。
こういったバイアスのかかった見方の人間から見た「幼女戦記」レビューです。
この作品の印象はタイトル通り、良作としか言えません。しっかりとした一本筋の通ったテーマによって構成が貫かれ、かつエンターテイメント性も申し分なく両立されています。ストーリーを下支えする設定も緻密で抜けがなく作品に十分な説得力があり世界観に無理なく入り込めるように作り込まれています。また、軍事知識に関する造形がかなり深く軍事に携わる者でしか実感できないような表現が随所にあることにも目を見張りました。
最初は戦争ものとはいえ主人公のビジュアルから異世界系のテンプレ展開の類いを想像していました。
願わくば、GATEレベルでの娯楽として楽しめたら儲けものぐらいに考えていたのですが意外や意外、人間の性質に踏み込んだ重々しいテーマを掲げていることがわかります。
「理性と感情」
これがこの作品の本質と言えます。戦争ものでありながら、その設定は人間の理性と感情の性質を表現するために都合が良いからであって戦争という事象そのものは形式に過ぎずテーマの根幹ではないことがわかるはずです。
主人公の一貫した行動原理、「社会ルール規範に外れず自分の生存が保証されれば、他者はどうでも良い」という姿勢は、現代社会に属する私たちの生き方をそのまま強烈に風刺しているように思われます。他人を蹴落として自らの生存を勝ち取る行動は本質的には戦争と変わりありません。
程度の差と言うこともできるでしょう。
2話目の転生前、リストラした他者に対して人としての関心を示さずただシステム欠陥とみなして切り捨てた結果、思わぬしっぺ返しを食らった過ちを省みようとせずに転生後も繰り返すことになります。
主人公が持つ主義原則と死を以て得た教訓、転生して得た力でもって異世界での生存と、神と称する存在Xに全力で抗うストーリーが今後どのように帰結し何を伝えてくれるのか。
続きが楽しみです。